黒田隆憲

ボーダーラインの黒田隆憲のレビュー・感想・評価

ボーダーライン(2015年製作の映画)
4.7
主人公は終始なす術もなくことの次第を見守るしかないという「無力感」に包まれる作品で、それがメキシコ麻薬戦争の底知れぬ闇の深さ、凄惨さを圧倒的な説得力で観る側に突きつける。「FBI vs 麻薬カルテル」の従来のフォーマットをうまく利用しながら、「だったら次はこうなるよね?」というこちらの予想をことごとく裏切っていく話の展開に目が離せなくなりました。

おそらくウェイトを相当落として挑んだであろうエミリー・ブラントがカッコ良い。『プラダを着た悪魔』の頃とか、それ以降も特に好きな俳優じゃなかったんだけど今回はとてもよかった。冒頭では「能力を買われてFBIの特殊捜査に抜擢された」と思わせておいて、ただただ翻弄され、疲弊し、辞めていたタバコに再び手を出すしかない彼女の視点で展開していく事態に、我々観客も彼女と一緒になって右往左往するしかないという。

他の俳優も全員最高。エミリーの直属の上司となるジョシュ・ブローリンの、人懐こそうで徹底的に彼女を見下した態度。今回の任務でキーマンとなるであろうベネチオ・デル・トロの得体の知れなさと、「死の海」に半身浸かっているようなどんよりとした目つき。ベネチオの「あの」シーン、俺は『銀河鉄道999』のキャプテン・ハーロック登場を思い出したよ。

唯一「救い」となるのは、『ゲット・アウト』でも最高だったダニエル・カルーヤの存在くらい。ヨハン・ヨハンソンの全身の毛が総毛立つような音楽も、名匠ロジャー・ディーキンスの映像もたまらんかった。あ、大好きな『フューリー』や『フォードvsフェラーリ』に出てたジョン・バーンサルの登場も嬉しかったっす。

とにかくヴィルヌーヴの、めちゃくちゃいい意味で性格の悪いストーリーテリングにひたすら振り回され身悶えする2時間でした。そして麻薬カルテル繋がりでまた『悪の法則』観たくなったなあ。
黒田隆憲

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