※とても長いうえに、殆どが批判的な感想です。
音楽がとにかく最高な映画です。
言い換えると、話の展開に行き詰まると、取り敢えず誰かがキャッチーな歌を歌い出して何だかんだ話が進んでいくミュージカル映画です。
スコアの4.0は、最高な音楽達とヒュージャックマンのキラキラ度で大幅に補正されたスコアです。
話の重要な局面を全てノリの良い歌に任せてしまっているため話の掘り下げは常に不十分で、話自体には深みも繊細さもない浅いエンタメ映画でした。
ただ、音楽の完成度は抜群に良いので、そこで映画の第一印象をかなりカバーしていた印象です。
実際私が映画を見た映画館では、映画終了後拍手が鳴り止まなかったですし、私もばっちり感動して拍手していましたし。
ただ、後から考えると映画自体に感動するというよりは、映画館の圧倒的音響で聞くサントラに感動する映画だったように思います。
映画を観ていると言うよりは、ライブやショーを観ている感覚に近いかも。
この映画が公開された時、映画批評家からは酷評されて、大衆からは支持されていたことも納得です。
歌の素晴らしさとは反対に、話はかなり雑な作りだったと思います。
大衆向けのエンタメ映画と言われればそれまでですが、唐突に展開する物語や、驚くほど軽く扱われる登場人物達の心情描写に引いた部分は多々ありました。
1つめは、金儲け第一主義と化し家族も自分のサーカス団員達もサラッと裏切る中々のクズっぷりを発揮したバーナムが終盤怒涛の勢いで心を入れ替え、これまたサラッと団員達にも家族にも許されて、マイノリティの人々の救世主のように賞賛されていたこと。
ヒュージャックマンの圧倒的な爽やか陽気な主人公パワーでかなり補正され、まるで差別に苦しんでいたマイノリティたちに手を差し伸べて輝ける機会を作り出したかのように描かれていましたが、実際バーナムがやっていたことは身体的な特徴を持つマイノリティの人々を見世物にしてのお金稼ぎ。
ミュージアムの動かない人形たちではお金にならなかったから、フリークたちの見世物に乗り換えたに過ぎません。
歌やダンスを取り入れた煌びやかなショー仕立てにして観客達をどんどん魅了していったとはいえ、本人にとってはビジネスでしかなく、いかにお金を沢山稼ぐかを考えていただけで、マイノリティを救おうという気持ちは皆無。
フリークたち的には、たとえバーナム自身にとってはビジネスのためであったとしても、自分たちにとっては閉じこもっていた殻の外の世界を見せてくれた恩人だったのかもしれませんが。
映画では限りなくマイルドにされていましたが、史実ではがっつり嘘でまかせでフリークス達を売り出していた半分詐欺師のようなことをしていた人だったようですし、美化しすぎでは？と思いました。
最後はふわっといい感じに纏められていましたが、バーナムって結局はどこまでも自己中心的なキャラクターだった気がします。
映画を観ている間はそこまでイライラしないのは、恐るべしヒュージャックマンパワーですね。
2つめは、This is meにもあるように、"ありのままの自分で、自分らしく強く生きていく"というのがメッセージだったにも関わらず、その割にはサーカス団員のフリーク達の扱いがとても雑だったこと。
ヒゲの女性レティと空中ブランコパフォーマーのアン、小人症の男性トムくらいにしか焦点が当てられておらず、個性豊かな残りの団員達は完全にダンスパート要員になってしまっていた印象でした。
多様性を認め合う素晴らしさや、自分をありのまま受け入れて社会の偏見や差別にも負けずに立ち向かう勇気を謳い文句にするには、フリークたちの掘り下げが足りないのではと思いました。
3つめは、ザックエフロン演じるフィリップが殆ど空気のように軽いキャラになってしまっていたことです。
上流階級からサーカスの世界へと入ることを決断する大切なパートは歌任せ。この歌が最高に格好いいことが何とも言えない気持ちにさせるのですが、それにしても急展開過ぎませんか。
19世紀のアメリカで、上流階級に属していたにも関わらずその世界を抜け出して、人間として扱われてさえいなかった"フリーク"たちを集めたサーカスに飛び込むことって相当だと思うのですが、劇中では一瞬で飛び込んでいましたね。びっくりするくらいの即決でした。エンタメ映画だから良いのでしょうか。
サーカス団員の1人の、ゼンデイヤ演じるアンと恋も知らないうちに発展していましたし。親との確執も表面をさらっと撫でる程度。全ていい感じの曲でふわっと纏められてしまっていましたけれども。
また、宮殿への招待の手紙が来たシーン。自分のコネクションを利用して女王への謁見を取り計らった、という流れだった気がしますが、そもそもフィリップにほとんど焦点が置かれていないのであの手紙は唐突以外の何物でもなく、フリークサーカス団における女王への謁見の重要性も、フィリップの有能さも伝わらなかった気がします。
4つめは、サーカスの再建が綺麗にすっ飛ばされていたこと。尺的な問題があったとはいえ、どん底に落ちたバーナムと、彼と共に再び歩み出すことを決めた仲間たちの復活の物語が1ミリも描かれず、いきなりテーマ曲が始まって映画の締めにかかったことには驚きました。
これだけ強引に締めに持っていっても、何となく綺麗に収まらせてしまうメインテーマ曲のパワーが凄いですね。
音楽がなければびっくりするほど拍子抜けな映画になっていたと思います。
きっと、深く考えてはいけない映画なのだと思います。そこまで作り込まれていない気がするので。
話の作りは非常に雑で深みのない、ありきたりなエンタメ映画でしたが、音楽は神でした。
本当に音楽が最高でした。
ヒュージャックマンの歌も素晴らしかったです。
批判しかしていない気がしますが、たぶん5回くらいは映画館で鑑賞している大好きな映画です。
爆音で観るのが良いですね。
