松瀬研祐

グレイテスト・ショーマンの松瀬研祐のレビュー・感想・評価

グレイテスト・ショーマン(2017年製作の映画)
3.7
主人公自身がパフォーマンスをするのではなく、プロデューサーとして成り上がろうとする人物であることが興味深かった。生まれながら貧困と、自分が下流階級であることへの劣等感があり、なんとか成功しようと躍起になる。ミュージカルナンバーで歌われる取り分の交渉は、まぎれもなくプロデューサーのそれで、ポンポンと小気味いいテンポで物語が進むが、例えば評論家に批判された新聞記事が載ると、「その新聞を持参した人は半額で観れる」という特典を設ける発想などは、事実かどうかは置いておいて、驚くような手腕だと思う。広告や、女王様への謁見など、巧みな宣伝戦略を駆使しようとする思考もまた徹底的にプロデューサーの感覚。

だからこそ、よりビジネス的な好機と思われる機会が訪れれば、それまでの興行のことなどお構いなし、とあっさり人に委ねようとするのは当然。それによるしっぺ返しは物語を作るうえでのお決まりではあるし、その後、家族や仲間との和解を経て、再び興行を推し進めつつ、愛すべき家族を大切にする描写も忘れない。

特に興味深いのが、放火により興業の中心となる建物を失い、失意のうちにいる主人公の前に、彼らの興行をこれでもかと批判した評論家が、着かず離れずながら奮起の台詞を語る際、『芸術ではない』と否定的な言葉を使うが、それに対して主人公はなんの躊躇いもなく『当たり前だよ』と答える。これまでの様々な批判、非難の中で、様々な抵抗・反発をしてきた主人公にとって、興行が既存の芸術であるかどうかは問題ではない。エンドロールの終わりに、本人の言葉をクレジットすることで実話を基にしていることを語りつつ、本人の考える芸術観についても明示しているものの、彼の徹底したプロデューサー然とした振る舞いを楽しむことができる作品だった。
松瀬研祐

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