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ネオン・デーモンのつのつののレビュー・感想・評価

ネオン・デーモン(2016年製作の映画)
3.5
ニコラスウィンディングレフン監督作品は「ドライヴ」だけ見ているが、北野武などと同じく、何百回と見てきたコテコテのあらすじを「解体」することで初めて魅力が発揮される作家なのではないか。
「ドライヴ」に関して言えば、その解体作業がただの解体に留まらずしっかりとカーアクション映画の新境地を開く発明にまで到達していたからこそ革新的な一作だったと思う。

本作でレフン監督が解体するのは「田舎娘のサクセスストーリー」。
その作業工程が如実に表れる前半は予想以上に楽しかった。
序盤のクラブシーンなんかはその最たるものである。
クラブにも関わらず恐ろしいほどの静けさが蔓延するトイレや、
ストロボが強烈な印象を残すショーなどに、レフンならではのダークな世界観を堪能できる。
或いは、生まれつきの容姿による格差が残酷に突きつけられるオーディションのエピソードやショービジネス特有の価値観についていけない彼氏との決別といった割とオーソドックスな展開も、レフンの「外し」演出を際立たせる要因の一つと言えるだろう。
007ゴールドフィンガーか突っ込みたくなる撮影シーンも面白い。

中盤でジェシーが出演するショーのシーンでその「外し」は頂点に達する。
熱狂する観客も華やかなパフォーマンスも存在せず、ただ赤と青の三角形のモチーフが繰り出される様の異様さよ!
この三角形が鏡張りなのが重要だ。
本作は全編にわたって「鏡」のイメージが乱用されているが、このシーンでそのイメージが持つ意味は臨界点を迎える。
残酷なショービジネスの世界と自分の良心の乖離
そして自分の美貌に対するナルシシズム。
この二つの要素が遂にジェシーの中で最大化し同時に合体したのがこのショーなのだ。
身も蓋もない表現をすれば「調子こき始めた」ということ(笑)。

しかしこの面白さは、臨界点を迎えた中盤を境にガラガラと崩壊していく。
中盤以降は本格的にホラー展開を、しかも単純なホラーではなく現実と妄想の境が曖昧になる展開を辿り始める。
つまり先述したような「コテコテ」なあらすじを超えるのだ。
ここで致命的に本作をつまらなくしているのは、監督の不気味表現の手数の少なさである。
80s風のシンセサウンドとのぺっとした不穏げな画面しかレフンは与えてくれない。
しかもその画面のイメージ自体もそれほどぶっ飛んだものでもない。
ここで思い出すのは「アート映画とエンターテイメントは両立可能」という言葉だ。
本作の後半がつまらないのは、アート映画だからではなくむしろアート映画として中途半端だからに他ならない。
勿論「ドライヴ」のようなアーティスティックな表現に託されたドラマ的深みも皆無だ(そういえば人間描写も驚くほど厚みがない)。
ラストのあの展開は確かに意外だが、それすらも結局はのぺっとした画面が不必要に長いタメとして機能しているせいで盛り上がりに欠けてしまっている。
映画を面白くするのは画面と音楽だけでなく編集でもあるのに、本作のそれは正直レフンは下手になっているのではと勘ぐってしまうほど残念だった。

確かに本作はさまざまな深読みが可能だし今まで文句を言ってきた画面にも意味があるのかもしれない。
しかしその意味を知る前にそれ自体の見た目がつまらないのなら、観客は深読みをしようとは思わない。
まさに劇中で交わされる「外面か中身か」の会話がそのままそっくり当てはまる。
ミイラ取りがミイラになるとはこのことだ。
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