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ロング・トレイル!のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ロング・トレイル!(2015年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

60歳を過ぎ故郷での平穏な日々に物足りなさを感じていた作家のビルは、ふと約3500キロ続くアメリカの自然歩道「アパラチアン・トレイル」の踏破を考える。旅の相棒に酒好きで型破りな旧友カッツが名乗りを上げ、 旅がスタートする。ところが体力の衰えや、自然の猛威という現実に直面し…。

作家ビル・ブライソンの実話を基にした著書を映画化。
外見も性格も全く違うシニア男性2人組の徒歩での旅を描くコメディの佳作。
力の抜けたゆる〜いロードムービーである。

「熊に襲われたらどうするの?1人は危険よ!いい歳してそんな無茶な旅なんて無理!」とあの手この手で反対する妻。
仕方なく旅のパートナーを募るビル。
そこに名乗りを挙げたのは、酒浸りだった思い出しかない昔の悪友だった。

生真面目で頑固なビルと、その正反対にガサツなカッツ。
最新式だと高価なグッズを売りつけられ、始まる前から行き先不安な2人の旅。
開始400mですでにカッツがバテバテ。
お喋りな女がベラベラと嫌味を言いつつずっとついてくるわ、歩道から外れて車に乗ったら頭のネジが外れたカップルだったりと、全く進まぬ珍道中。
突然の吹雪に見舞われたり、夜中に熊に遭遇したり、口説いた女性の夫が宿に殴り込んでくるアクシデントも。

途中から車で行こうと言い出すカッツに、断固として反対するビル。
性格も考え方も何もかも違う2人は口喧嘩ばかり。
しかしそれでも、大自然を一望出来る見晴らしのいい頂きに辿り着くと、これまでのいがみ合いも疲れも解消される。
その達成感は登山に似て、何物にも変えられない心地良さが感じられる。

ロバート・レッドフォードは歳をとってもスタリッシュでカッコいい。
表面上はクールだが熱い心を持ち、ロマンを追う頑固な性格のビルは、70年代からずっと演じてきたお得意のキャラクターと言えるだろう。
若い頃ならカッコいいのだが、気持ちについていかない年老いた身体でそんな気取った役をやるものだから自虐的ギャグに見えて笑ってしまう。

反対に男臭い名優ニック・ノルティの方は現実的。
いかにもホワイト・トラッシュなだらしない体型で長髪に髭。
怒りっぽいし皮肉屋のくせに、老いを自覚していて、膝が悪いだの車に乗ろうだの、ワガママ放題の言い訳放題。
どこにでも居そうなくそジジイである。
酒を断ったと言いながら小瓶を隠し持ち、ビルに貸りっぱなしの金のお詫びにと旅に付き合う姑息な情けなさが笑える。
カッツは見るからに足を引っ張りそうなキャラクターで、最初から「絶対無理だろ?」と思わせる。

しかし、どんな相手であれ、やはり1人で旅するよりは2人の方が安心するし楽しい。
まるで弥次喜多珍道中のノリである。

お互いのせいで失敗することはあっても、助け合って様々な困難を切り抜けていく。
若者ならもっと激しい危険が待ち受けている旅でないと話が成立しないが、年寄り2人が主人公ということで、ほんのちょっとしたことがとてもドラマチックだ(笑)。

2人の名優の珍しいコメディ演技とお互い一歩も引かない掛け合いは流石の存在感。
クールと熱血な役で鳴らした、かつての2人の姿を知っている人は自虐ネタに笑えるだろう。
逆に2人を知らない人は、おじいちゃんのハイキングに見えるかもしれないのが難点。
しかし、そもそものターゲットが年寄り向けの作品であるので、そこは仕方ない。

ラストも何とも呆気ない。
崖からほんの少しだけ転落するが、老体ゆえに登って道まで戻れない。
星を見ながら不安な一晩過ごした彼らは、通りかかった若者たちにすんなり助けられる。
自分たちには限界があると気づいた2人は、急にホームシックになる。
そして、あっさりとリタイアして車でゴールする軽やかさ。
「ええっ?もう終わり?」という外し方もまたギャグである。

この映画の唯一の教訓は、ビルがこの旅に出掛ける前に言った言葉「どうなるかわからないけどベストをつくそう」である。
人生の酸いも甘いも経験したからこその重みが感じられるが、この言葉はこれから人生を生きる全ての人に言えることだ。

結果的に、旅を通して旧交を温める老人の姿を優しく見つめた物語となっている。
「次はどうする?」とカッツが道中ビルに内緒で投函していた絵葉書が微笑ましい。
「また面白いことをしようぜ」という元気が出るメッセージだ。
ビルは久しぶりに作品を書こうとする。
まだまだ元気に生きていきそうな2人である。

大冒険を期待すると肩透かしを食らう。
だが、旅番組や散歩番組が好きな人にはうってつけ。
休日の昼下がりにちょうど良い作品である。
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