Uえい

マルメロの陽光のUえいのレビュー・感想・評価

マルメロの陽光(1992年製作の映画)
3.5
おじいちゃんが絵を描く姿を追うドキュメンタリー風の変な映画だった。だけどすごく味わい深い。

主人公アントニオは画家で、住むアパートの庭にあるマルメロの木を油絵で描こうとしていた。かなり拘りが強く、木を観察する位置を釘で固定したり、木にも位置を示すペイントを施す程だった。

そして、マルメロの木が陽に当たって輝く一瞬を捉えようと、絵を描き進めて行く。隣人や家族、友人との談笑も交えながら定点観測する様にアントニオの姿を捉える。しかし、天気に恵まれなかったのと、マルメロの成長が早く、完成には困難を極めるのだった。

段々と絵を完成させるのが難しくなっていく過程が、キリスト教的試練や、奇跡を起こそうとしている修道僧の様にも見えてくる。

そしてカウリスマキが5年ぶりに監督した「枯れ葉」でウクライナ戦争のニュースがラジオから流れてきた様に、エリセが10年ぶりに監督した本作では、当時起きていた湾岸戦争のニュースが流れる。困難に挑む姿は僧侶が焼身自殺する様な平和への悲痛な祈りの様にも思える。

ミケランジェロが60代で書いた絵を前に、自分の残りの人生の短さを悟るシーンが印象的だった。結局、絵の完成を諦めてしまうが、木という自分では制御できない生命を無理やり絵画という秩序の中に押し込めようとして、それが出来ない事を悟った様にも見えた。「ミツバチのささやき」でミツバチを当時の国民と見立てた様に、マルメロの木を社会に、アントニオを為政者に見立てていたのかもしれない。
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