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スティーブ・ジョブズのGoachのレビュー・感想・評価

スティーブ・ジョブズ(2015年製作の映画)
3.9
スティーブ・ジョブズの「人生最大の苦悩」にフォーカスを当てた作品。

本作を「プレゼンテーションの舞台裏」として観ると、ミスリードが生じるかと思います。偉大な功績をなぞる伝記映画にはせずに、あまり知られていない彼の内面をテーマに、「人間スティーブ・ジョブズ」を描くという制作者の強い意志が感じられる作品です。

伝記やプレゼンテーションの舞台裏として捉えてしまうと「どうしてiPodとiPhoneのプレゼンを見せてくれないんだ!」という疑問が出てしまうと思います。偉大な彼の伝記映画にしてしまうと、観客の頭の中にあるジョブズと演者達が比較され続けるという懸念もあってか、主役は特にジョブズに似てないような風貌です。全ては「誰も知らない彼の素顔に迫るため」の演出なのかと。

何と言っても、脚本の素晴らしさが光る作品です。
シュチュエーションを「プレゼン直前」に絞ることで、ピリピリした空気感や緊張感を醸成していて、テンポ良くストーリーが進みます。それに加えて演出の妙。「時空を飛ばす」感覚を得るような演出の数々に、前述の緊張感。彼の登場を心待ちにする観客の喝采など、リズム感ある流れに絶えず引き込まれてしまいました。

ただ、この作品はスティーブ・ジョブズへの予備知識がないと楽しめない要素もあるかと思います。本筋ではないのですが、IT用語などがどうしても出てくるので無駄な「?」は無い方がストレスないかと。他にも、世紀のプレゼンテーションなど、ある種の"お約束"を求めてしまうと負の期待不一致が起こるような。

僕が一番感動したのは「Appleが凄い物を生み出したぞ!」と世間の話題を大変に集めたと表現するシーンです。現代を生きる人間なら誰しも分かる、スマートフォンを隠喩した画面の動き。亡きジョブズへ「iPhoneを作ってくれてありがとう」と言っているような気がして、ただただ感動しました。

愛に満ちた良作だと思います。
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