おかちゃん

今朝の秋のおかちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

今朝の秋(1987年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

冒頭より「蓼科」が出てくる。
蓼科湖?辺りの賑わいと白樺林が映され親鳥が雛に餌を届ける画が流れる。家族&親子の物語である。
4~5年前、女房とふたりで小津別荘を訪ねたことを思い出す(流石に笠の別荘は朽ちていたが)。

 山田脚本は、小津作品等と比べると台詞が多いのが気にはなる。ただ、テーマ考えるとこうなるんだねー。

笠の麻ジャケットが、カッコよくて気持ちよい。「タイトルの朝と麻。これ洒落てるだろ…」楽屋落ちが聴こえてきそうなスタッフ陣だ。この麻も物語が進むと徐々にヨレヨレになってくる。

癌で余命3ヶ月しかなくなった主人公・杉浦の苦悩も解らなくもない。死に気付き自らの人生を振り返り、組織の一員でしかなかった事に気づく。在職中は上手く使われるが、居なくなればなったで、それなりに事は過ぎていく。けれど、在職中忙しく過ごした事によって、家庭崩壊していた(妻に男の影が…離婚ばなしである)。死を切っ掛けに残りの人生を考える。それは、同時に50代以降の生き方を問うているとも言える。80代の父親・笠は、50代以降の生死の捉え方を考えあぐねる。そして元の同僚(加藤嘉、これもまた味ある演技)に指摘される。つまり、余生だから好きなように生きれば良いのである。笠はもう一度「生きる輝き」とは何かを思い出す。
 そうは言っても、50代が思う生と80代が思う生ではやはり差がある。 そこで、蓼科山荘で親子の会話になる。「どうせ、人はいつか死ぬんだから、特別な事ではないよ。」笠が穏に笑みを浮かべながら、諭すのである。この二人並んだ何気ないシーンは素晴らしい。
これを切っ掛けに、杉浦も考え直し残りの人生を生き生きと過ごそうと努力する。家族も彼の呼掛けに応え、一家団欒を取り戻そうという気持にまとまる。ただ、本当はしっかとした現実はあるのだがそれを堪えて。妻・倍賞の台詞「人間は夫以外の人を愛する事があるわ。でもね、死ぬって分かって、その方法しかないなら少しでも優しさを選ぶわ。もう一度愛せるか努力してみるわ~」。
全体に言えるが、倍賞の美しさは際立ちエロい。特に、この台詞の時の表情は「強く生きようとする女性」を見事に演じている。素直にいい女🤭

そして、穏やかな団欒を過ごし杉浦は死へ旅たつ。位牌の前で、老夫婦の残り人生の過ごし方を問う。間男作って家出して小料理屋を営む母親・杉村「もう少し意地張って、独りで暮らすわ…」。現実をみた静かな決断である。
笠は穏やかに見送り杉村が去ると、現実に戻りなんの違和感もなく元の生活に戻っていく。

 山田作品は、その時代の空気感を的確に読み取りながら、家族や親子、世代間の意識差といった、身近な社会にある現実的問題をテーマに取り上げていく。若い頃に数作品を見ていて、いろいろ考えさせられた。ただ本作品は初見だ。若い頃に見ていたら、理解できていたろうか…?流石に同様な年齢になると、リアルに理解出来る。様々な現実的問題はあるかもしれないが、先を観すぎず「今」を、納得の行く過ごし方をすれば良いのだ。
そして、問題は年金が…(笑)。