靜

アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たちの靜のレビュー・感想・評価

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精神病院が舞台となれば、正常と異常の境い目に一石を投じて波紋で揺らがせてくれると信じていた。裏切られなかった。
誰が正常で誰が異常かなんて分からないし、そもそも正常とは?異常とは?信じられるだけの根拠は?別の面を見れば正常も異常になるでしょう。
そうであって欲しい。勧善懲悪なんか興味ない。

そういった地盤なので、物語は二転三転捻りが加えられていて飽きない。サスペンスの緊張感もアクションの吹っ切れも見極めが良くて、精神病院にいる人々の不穏さを内包する得体の知れない造形も舞台美術のおどろおどろしい雰囲気も大変良かった。好き。
マイケル・キングズレーとマイケル・ケインの顔面が脇を固めているのだから文句なしに強いよ。

物語の序盤、自分のことを馬だと思い込んでいる男を見た精神科医を目指す主人公が「彼を正常にしたい」というようなことを言うと院長が「幸せな馬を、哀れな男にするのか?」と返していた。鳩尾に刺さってぐうの音も出なかった。
何が“正しい”か他人が推し量れるものでも、定義出来るものでもないね。それでも正しさを信じて暗中模索で進むしかないなんて。

いくつかの個人的な救済も描かれていて、後味が悪いんだか良いんだかよく分からない微妙さも含めて満足。
靜