スーパーエイプマン

ボクシング・ジムのスーパーエイプマンのレビュー・感想・評価

ボクシング・ジム(2010年製作の映画)
4.5
ロード・ジムという小さなボクシング・ジムの日常を捉えた作品。すごく好きです。
ワイズマン自信の編集でシーン毎が独特のリズムによって繋げられることで、時間感覚が極度に変容している所が特徴。1日では無いことはわかるがこの映画はロード・ジムの1ヶ月なのか1年なのか、あるいはもっと長い年月を捉えているのかまるでわからない。抽象化された時系列の中で奇妙な一貫性を感じさせるのはボクシング・ジムの音だ。時間の経過を知らせるブザーやサンドバッグを殴打する音、フットワークの音、パンチの時に息を吐く音はビートのように響き映画全編に渡って途切れることがない。
白人ヒスパニックメキシコ系黒人老若男女といった多様な人々がジムに集い、試合を見据えていたり健康のためだったり目的はバラバラなのだが、皆ボクシングという競技にある種の敬意を感じさせるところも感動的。アメリカの美しい縮図というか。無我夢中でミットをパンチする太った中年白人やスパーリングする子どもたち、黙々とトレーニングを続ける女性。ドラマチックな展開も格好良いスターもいないが、それでも色んな人々が真摯にサンドバッグを叩いている姿を見ていると、映画とボクシングの相性の良さに鈍い興奮を覚えてしまう。フットワークの練習をしている男女の足だけを捉えたショットは特に素晴らしい。オリヴェイラ『家路』みたい。
それにしてもワイズマン作品の特徴なんだろうけど、最初と中盤シーンが変わるところとラストに現れる官僚的な説明ショットはなんなんだろうか。空や夕暮れの美しさに目を奪われる一方、本編と違い明らかに規則的というか教条主義的に撮ってるのが笑える。