かたゆき

黄金のアデーレ 名画の帰還のかたゆきのレビュー・感想・評価

3.0
1998年、ロサンゼルス。
長年この地で小さなお店を営んできた平凡な老婦人マリア・アルトマンが、オーストリアという国を相手にある訴えを起こす。
それはこの国で長い間国宝として大事にされてきたクリムトの名画『黄金のアデーレ』が第二次大戦中ナチスによって不当に奪取されたもので、本当の所有者である自分に速やかに返還すべきだというもの。
まだ駆け出しの弁護士を専属で雇い、巨大な国家権力を相手に無謀ともいえるそんな戦いを挑んだマリア。
それでも彼女には決して負けられない理由があった――。
幼い時に亡くなった彼女の叔母アデーレこそがその名画のモデルだったからだ。
つらい過去を忘れるためにずっと足を踏み入れたことのなかった祖国の地にまで足を運び、マリアは煩雑な手続きの壁に立ち向かってゆく。
同時に、それはナチスに蹂躙された彼女の激動の半生をも甦らせてゆくのだった……。
世界的な名画の裏に隠された、時代の荒波に翻弄され続けたとある女性の真実を描いた大河ドラマ。

興味深い題材ではあるし、主役である老婦人を気品豊かに演じたヘレン・ミレンの魅力も相俟って、なかなか堅実に創られた歴史ものとして最後まで面白く観ることが出来ました。
時代考証もしっかりしていたし、ドラマとして過不足なく演出出来ていたと思います。

なのだけど、正直に自分の感想を述べさせてもらえれば、「何かが足りない」。
全てに対して何処か踏み込みが甘いような気がしてしまうのです。
クリムトの名画に隠された真実、国家権力に戦いを挑んだ市井の一市民、ナチスに蹂躙された家族の物語と、どの題材も魅力的であるのにそのどれに対しても表面的なアプローチしかなされていない。
なので、本作は結果的に薄味な印象を観客に与えてしまう。
題材が良いだけに、「惜しい」と言わざるを得ません。
監督には、破綻を恐れずもっと踏み込んだアプローチをしてほしかった。
そうすれば、より多くの観客の心に残る「名画」となれたであろうに。
かたゆき

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