MasaichiYaguchi

完全なるチェックメイトのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)
4.0
「代打ち」というのがあるが、ある人物の代理として、場合によっては組織や団体の代表の代わりとして麻雀、パチンコやパチスロ等の賭博を行う者のことを指す。
本作で描かれたチェスの世界王者に挑むアメリカ人の天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーは米ソ冷戦時代における国の威信を背負った正に「代打ち」だ。
映画では、早くもチェスの頭角を現した幼少期から、タイトルを24年も保持し続けていたソ連への挑戦権を得るまでの彼の破竹の勢いの戦いと成長を、その人となりを浮き彫りにしながら描く。
天才は、天から与えられたような、人の努力では至らないレベルの才能を発揮する人を指すが、その反面、非常識で型破りな変人としての部分もあって周囲を振り回す。
このボビー・フィッシャーもその例に洩れず、自己中というか、傲岸不遜というか、とてもエキセントリック。
そしてチェス王者決定戦というプレッシャーのピークでは、益々エキセントリックさに拍車が掛かっていく。
雌雄を決するチェスの対戦は、戦争のように血を流して殺し合いはしないが、心の血を流して精根尽き果てるまでチェスを指し、一つ間違えば廃人になってしまう。
ただ原題“Pawn Sacrifice”にあるように、精魂傾けて戦う彼らも米ソの2大国にとっては国のイメージアップ、国威発揚の為の“捨て駒”でしか過ぎない。
将棋や囲碁、そして本作で取り上げたチェスは、盤上で繰り広げられる静かな戦いだが、そこには国や他の人々の思惑を超えて人類の英知と情熱がある。
この頃ではゲームソフトでしかプレイしないチェスだが、人と向き合い、腹を探り合い、何手先を読みながらプレイする醍醐味を久し振りに味わいたくなった。