ひこくろ

完全なるチェックメイトのひこくろのレビュー・感想・評価

完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)
4.4
ボビーという人物を通して、天才の苦悩をえぐるように描いてみせた、すごい映画だと思った。
常に勝つことだけを考え、すべてを勝利のために捧げるボビーは、精神的にどんどんと追い詰められていく。
誰かが自分を見張っているという強迫観念に襲われ、些細な音ですら思考を掻き乱すように感じてしまう。
価値のある自分を認めない社会に対して苛立ちを覚え、行動も傲慢になっていく。
でも、それもしかたがない。ギリギリのところで戦い続ける天才は、そうでなければ、勝ち続けられないからだ。

天才は天才であるがゆえに狂い、天才であるがゆえに孤立する。
誰も彼と同じ極限には立てないし、彼を理解することもできないからだ。
たった一人で思考を極限の高みにまで持っていき挑むチェスというゲームが、よりその天才の狂気を鮮明に浮かび上がらせる。

恐ろしいのは、これが実際の人物だったということだ。
もちろん、脚色はあるだろうし、誇張もあるだろう。
でも、こういう人物がいて、こういう試合をしたことは事実以外の何物でもない。
そこに恐怖と言うよりも、畏怖に近い念を抱かされる。

チェスのルールをまったく知らなくても、関係なしに楽しめる。
観始めたら止まらないし、目を離すこともできない。
それぐらい、すごいパワーを持った作品だった。
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