樽の外のアンティステネス

教授のおかしな妄想殺人の樽の外のアンティステネスのレビュー・感想・評価

教授のおかしな妄想殺人(2015年製作の映画)
3.2
機内鑑賞。
教授のおかしな…とは言ってみたものの、妄想殺人や妄想恋愛を繰り返して生きているのは、映画作家という生き物ではないだろうか。そしてその彼が作った「妄想」を観て面白がっている我々もやはりirrationalであると言われても、文句は言えない。

精神的に病んだ主人公はこの監督の作品に通底するテーマで、以前は彼自身が演じていたような、つべこべ喋りまくりながら世の中を悲観的に生きつつ、なぜか交際相手には不自由しないという都合のいい主人公を、最近の作品では全く違う俳優が演じることが多くなり、今作ではホアキン・フェニックスそしてエマ・ストーンが(それぞれのモノローグも交えながら)演じている。それはそれで新鮮だし、特にあのホアキン・フェニックスがウディ・アレンを演じていると思うと、そのギャップだけで1笑いするには十分ではあるけれど、やはりこの病んだ主人公はウディ・アレンその人であるに違いない訳だし、彼自身が八の字眉毛とあの分厚い眼鏡で、実に困ったような顔をしながらご丁寧に観客に向かって話しかけてくることで、はじめて彼の作品が腑に落ちる気がしないでもない。美男美女が彼を演じても、第三者からある困った知り合いについての噂話を聞いているような感覚になってしまう。

でもこれが、この老監督の「おかしな妄想」即ち映画なのだろう。