ほおづき

64 ロクヨン 前編のほおづきのレビュー・感想・評価

64 ロクヨン 前編(2016年製作の映画)
5.0
この映画は原作の小説がすごく好き過ぎて、この映画もすごく好きなんだけど、やっぱり雰囲気が地味だし暗いし、大衆受けする感じじゃないとは思う。。。
もともと情報量が多すぎるおはなしのクセに、上下巻あるうちの全体の4分の3を占めてる1.5冊分を前編の2時間に無理やり押し込めちゃったからさらにわかりにくい映画になっちゃってるのかもしれない・・・


そもそも、このおはなしって小説版では事件解決パートは下巻の後半半分以降だから、犯人が後半に突然出てくる時点でもうミステリーじゃないと思っていて、かといって刑事ドラマでもなく、巨大権力に立ち向かうっておはなしでもない、、、
解釈違いって言われるのを覚悟で言うと、この小説の魅力は、その4分の3を占めるサラリーマン人間ドラマの部分なんだと思ってる。

つまり映画の
前編は”中間管理職”編
後編は”ミステリー?”編


だから、日々の仕事の人間関係に苦しめられているサラリーマンにこそ観てもらいたい作品なんだと思う。
でも日々苦しめられてるのに映画でも苦しめられるのも辛いのかもしれないw

とにかく  
何といっても佐藤浩市さん扮する主人公の
「県警 警務部 広報官」
という立ち位置がおもしろい
  
主人公の配属されている「警務部」は、マスコミへの情報提供の対応を含め、事件のあらゆる情報全般を取り扱う部署。それに対して、事件そのものの捜査をする「刑事部」は、マスコミによる捜査情報の漏洩を警戒してるからお互いに仲が悪い。
これは、マーケティング部と開発部の仲たがいみたいな感じかなぁ。

過去に「刑事部」にいた経歴を持つ主人公は、双方からのいわれのないスパイ扱いで元同僚からも敵視され「刑事部」からも「警務部」からも煙たがれてしまっている。


そこに「警視庁」のやっかいな話がのしかかってくる。外様である「県警」は「警視庁」のエライ人には逆らえない。
これは、元請け、下請けみたいな感じかな?本社、支社かな?

さらに追い打ちをかけるように、情報開示を要求してくる「記者クラブ」の存在が「広報室」広報官という立場を苦しめる。報道のためにも新鮮な情報がほしい「記者クラブ」と、犯人に察知されては困る刑事部との板挟みになる主人公。
これは、twitterとかSNS対応とかクレーム対応か・・?
  

そして
「警務部」と「刑事部」
「広報室」と「記者クラブ」
「県警」と「警視庁」
これらの対立のど真ん中にいるのが主人公で
  
上(警視庁)からも
左右(警務部・刑事部)からも
内外(県警・記者クラブ)からも重圧をかけられる4人だけの狭い広報室が「ロクヨン」と呼ばれるいわくつきの事件によって戦場になってゆく様が胸アツな作品なんだと思う。

当事者であるにも関わらず自分の自由にはならなくて、責任だけは重くのしかかり部署内外にも味方はいない。あげく部下からも理解されない。その中で、被害者遺族の為に靴を汚して東奔西走する、そんな「中間管理職」の葛藤が描かれているんだと思う。

だからこそ、会社のあらゆる”ハザマ”で戦っているサラリーマンにこそ観てほしい作品。


さらにそこに、昭和64年や娘をもつ父親3人の葛藤や無言電話のエピソードなんかが絶妙に交差してきて、ほんとに傑作だと思う。

でもやっぱり
それは原作のほうなのかな。。。
この映画を見るときは、原作を読んでからがいい・・・