Jonayama

怪物はささやくのJonayamaのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
4.6
『永遠のこどもたち』や『ジュラシック・ワールド 炎の王国』を手がけたファン・アントニオ・バヨナ監督のダークファンタジー/人間ドラマ。


重い病に苦しむ母とともに祖母の家に住む12歳の少年コナーは夜毎見る母を失いかける悪夢や祖母との生活による居心地の悪さ、そして学校でのいじめに悩まされていた。
母譲りの才能で絵を描きながら空想の世界へ逃避しがちな日々を送っていたある晩、時計が12:07を指したとき部屋の窓から見える教会の傍に立つイチイの樹が巨大な人型の"怪物"に変わりコナーのもとにやってくる。
"怪物"はコナーの話に耳をかさず次に会う時3つの"真実の物語"を語るという。そしてその後コナー自身の口から4つめの"真実の物語"を語るよう要求し去っていった。
彼は一体何者で物語になんの意味があるのかコナーには全くわからず翌日を迎える。


悲しくも美しい名作『パンズ・ラビリンス』を思わせる現実世界で起きた不思議な出来事を暗く重々しいテイストで描くダークファンタジーであり辛い状況にいる1人の少年が白か黒かで割り切れない人間の複雑さや困難と向き合う術を"怪物"や親族たちから学んでいく成長を描いた物語でもある。

グッと絞られたキャストによる演技がとても素晴らしく病に苦しむ母を演じる『ローグ・ワン』で大躍進したフェリシティ・ジョーンズや祖母を演じた名優シガニー・ウィーバー、深みのある声とモーションキャプチャーで"怪物"を演じた最高の渋みを持つリーアム・ニーソン、そして不安定な役を文句のつけどころがないほど見事に演じた新星ルイス・マクドゥーガルらが作品の説得力を高次元で高めている。


AAAクラスではないにしろ比較的予算をかけて制作された故か映像も美しくファンタジー部分を担うCGやアニメーションもなかなかの高水準を維持しているのもいい点だ。
いつも素晴らしい劇伴を提供するスペイン人作曲家フェルナンド・ベラスケスの恐ろしさ悲しさ美しさが同居したスコアや余韻をさらに沁み渡らせるKEANEの見事なエンディングテーマも最高だ。

悲しい出来事は起こるが教訓を得て歩み出すようなポジティブな余韻を残す希望のある作品なのでファンタジー映画好きというよりどちらかといえば人間ドラマが好きな方へおすすめしたい作品だ。
劇中起こる現実的・非現実を問わず多くを語らない作りの作品だが個人的には想像の余地を残したり示唆したりするシーンを読み解こうと考えを巡らせるのも好きなので本作のテイストはとても好み。
中学生くらいのお子さんがいる方は一緒に観て語り合ってもいいかもしれない。






個人的にコナーが初めて見た(聞いた)"怪物"の語る物語のモチーフが見たこともないはずの幼き頃の母の画帳にみな描かれていたことがわかるラストシーンは本当に秀逸な描き方だと思う。鑑賞中何度も泣いたがここでも思わず涙。。
本作で登場するアートワークはみな素晴らしい。
Jonayama

Jonayama