佐々木昭一郎の創り出した映像世界は、フィクションの可能性を無限に広げてくれた。ここまで作り込めば、あとはなんでもありだ。
中尾幸世が歌おうが踊ろうが、笑おうが泣こうが、こちらを向こうがセリフを詰まらせようが…。
いわゆる自然な演技をしているように見えるけれど、ドキュメンタリー的に登場する人たちは、ろくに演出もされず、ガチガチのまま。それでも面白い。不自然の何が悪い。小さいことをガタガタ言うな。これが、この作品の世界だ、と言わんばかりの走りっぷりは見事としか言いようがない。
オープニングからエンディングまで、佐々木昭一郎にしか撮れない世界だ。この作品にリスペクトを表す河瀬直美さえ、役積みと称して、役者にその役を演じさせるのではなく、その役を生きさせる、と言う道を選んでいる。しかし、佐々木は役を生きると言うことを主人公である中尾幸世にだけ課している。その潔さ、そして、その英断。
何度見ても、この作品に流れる生と死への冷ややかな視線と、温かな取り組みは、特筆すべきものだと思う。