ベティー

パリ3区の遺産相続人のベティーのレビュー・感想・評価

パリ3区の遺産相続人(2014年製作の映画)
3.3
パリの不動産を遺産相続した男が主人公。
家を見にいったらなぜかおばあさんが住んでいて、「この家はヴィアジェなのよ」とよくわからないことをいいだし、居住権を主張する。この仕組みが最初よくわからず関係性が?だったので視聴前に知っておくとよいかもしれません。
ヴィアジェは特殊な不動産売買の仕組み。
売買の金額が不定なのが一番の特徴ですね。支払いは月額固定で、期間は売主が死ぬまでという、売主側からすると家を担保に老後の安定した生活費を得るための仕組みで、死んだらその時点で不動産は買い手の資産となる。単身高齢者向けの販売方法ですね。
とすると買い手側からすると非常にギャンブル性の高い商品ということになるでしょうね。なにせ月額費の支払い期間が不定(売主が死ぬまで)ですから。売主がすぐ死ねば儲け、長生きされると損をする。
例えば、月額7万円でヴィアジェ契約したとして、売主が1年後に死亡した場合、なんと84万円で不動産を購入できるわけですが、長生きして10年後に死亡した場合は840万、さらに20年後だと1680万になってしまいます。こうなると負けの気配がしますね。資産価値と売主の健康状態が勝ち負けの分かれ目となるとんでもないギャンブルですね。
売り手が死亡するまでは買い手は住むことができないことも考えると、どうも一般人向けの仕組みではなさそうですね。住居の購入目的というよりリスクの高い資産運用といったところでしょうか。

この話では、売主はお婆さん、購入したのが主人公の父というわけなので、この父親は自分が先に死んでしまったわけです。それで、その資産or負債か未確定な契約が息子の主人公に相続された、という状況です。

設定がおもしろいのですが、しかし話の方はそれほどではないですね。前半は眠くなるし後半はそうとうに嫌な気分になりました。パリの景色がとにかくおしゃれです。街写すだけでおしゃれってすごいな。登場人物それぞれの人間性の醜さのせいか景色だけが際立って美しく見えたような。
不可解だったのが、売主のお婆さんは実は娘と同居しているんですよね。それなのにヴィアジェ契約してしまっているので、自分が死んだら娘はホームレスになってしまうわけですが、ちょっとどうなんでしょう。この人本当に娘を愛してないんじゃないかって可能性がよぎりました。
主人公も無職のアル中で、とくにおもしろいキャラクターでもなく、どちらかというと嫌なやつかな。まあ無職アル中がすごく魅力的なキャラクターっていうのは映画的すぎるから、リアルといえばリアルですが、魅力はない。しかしそれを超えるのがこのお婆さん。とにかくいろいろとひどいので、怖いもの見たさにいいかもしれないです。
ストーリーに触れづらい作品なのですが、過去の心の傷とか成長期の環境が人間形成に与える影響などが題材となっていて、なかなか興味深いというか、なにか満たされないものをもって育つといろいろと他の部分にも歪みがでてしまうような具体例をみせられたようで、そういうこと思い当たる節もあるし、時間が経ってレビューを書いているとなかなか不愉快だけど深みがある作品だった気がしてます。視聴後はなにこれ?つまんないって感じでしたが。
しかし、この手のテーマにしてはあまりにも年齢層が高すぎるのがきびしかったです。感覚的には、子供の頃のトラウマだったり、家庭環境の話で苦しむ姿を見せられて違和感ないのは20代か、せいぜい30代前半くらいまでな感じがするので、全然同情心がわきませんでした。現実には年をとっても癒えない傷はあるし、年とともによりつらくなることもあるし、わかるんですが、ある程度年いった人のそういう姿はあえて見たいとはおもわないですね。
それにしても、周りの人を次々と不幸にしても思うがままに生ききって老後は家を抵当に英会話教えて楽しく過ごしているこのお婆さんと、幼少期から内面的な問題に引きずられて現在まで苦しみ続ける生き残り犠牲者2名という対比はなかなか面白い構図かもしれないです。全然感動しませんが教訓はあった。
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