絡み合う葛藤。矛盾に身悶える。
アイナーのなかで抑圧され続けていたリリーがなりふり構わず溢れ出す様は、性と自我に目覚めた思春期の子供のようだ。
自分の欲求と喜びに夢中で、無邪気で。
側にいてくれといいながら、自分の道をいかせてくれという言い分もまるで母親に対する思春期のそれだ。
人間が目覚めるときというのは、みんな一緒なのかもしれない。
それがジェンダーであっても。
ゲルダの葛藤と矛盾はもっと深刻で鋭利だ。
リリーの存在に気づきながらも正面から受け止めがたく、ゲームのつもりで誤魔化したはずなのに。
目の前のその人を変わらず愛してるから、救ってあげたいのに。
救えばゲルダの望みは永遠に失われる。
ふたりのその複雑な感情に、何度も胸を掴まれてめちゃくちゃに絞り上げられてるようだった。
つらいのに苦しいのに涙がでなかった。
私の気持ちも複雑で、どちらかの何らかの感情に移入して泣くというのが難しい。
観客をこんなふうにしてしまう、ふたりの表情は、目線は、仕草は、見事としかいいようがない。
とくに、エディのはにかんだような笑顔は男としてでも女としてでもなく、美しくとても魅力的だった。