鹿江光

リリーのすべての鹿江光のレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
3.7
≪75点≫:魂で人を愛するということ。
夫婦である以上、そこには男女の関係があり、異性への愛がある。しかしその愛する人が、“愛する人でなくなっていく”としたら……。目の前に愛する人がいるのに、その人は次第に自分の知らない存在へと変わっていく……、そのとき“愛”はどこへ行くのか。
今でこそ広く認知され始めたが、当時はまだ「精神病」と見做され、異常者のレッテルを貼られていた“トランスジェンダー”。そんな時代に、本当の自分として生きることを決意したリリー。そしてそれを生涯支えた妻。そこには男女間で行き交う愛というよりも、生きとし生ける者同士の魂の交錯が描かれている。
一方は抑圧していた意志を受け止め真実に近づこうとし、もう一方は必死に愛の行方を捜していく。その両者の姿がとにかく切なく、苦しく、そして理想に似た美しさを孕んでいた。例えその美しさがフィクションによる産物だとしても、そこには確かにリアルが存在していた。
妻を演じたアリシアの複雑な心情表現も素晴らしいが、なんといっても性別を超えた演技を魅せたエディの姿がとにかく衝撃的である。鏡の前で性器を股間に挟み、“女体を作る”シーンなど、彼の行動を包み隠さず、モザイク無しに映した姿勢も好印象だった。そういう部分を露にすることで、さらに観客は登場人物たちの心へと飛び込んでいける。
LGBTの作品が増えてきた今、愛を語る方法はひとつではなくなった。より複雑で、より強い、大きな魂のつながりがそこにはある。
魂で人を愛する。そう簡単にできることじゃないけれど、我々が行き着くべき先はそこにある。
鹿江光

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