このレビューはネタバレを含みます
育児放棄で施設へ預けられた少年が、母の温もりを求めて脱走し帰るという設定は、比較的、見られるもの。
それだけに、ただ可哀想という流れでは埋もれてしまう。
本作の独自な部分は、母親の人物像で、一見、子供に愛情を持っているように見える。
セックスの途中でも嫌がらず食べ物を用意する、施設入りを感情的に拒む、帰ってきた兄弟を嬉しそうに迎える…
だが、最後に兄が見抜いたように、一切の責任感も本当の意味での愛情は無い。
再会の時も、特に嬉しそうに語ったのは新しい男のこと。
一貫してカメラが捉える兄の表情は無表情に見える。
だがこれは、残酷なことに弟の父と、母の保護者の役割を担う”子供”の覚悟を表している。
作中で殆ど泣かない。この状況で泣けない子供は辛い。
既に子供では無いのかも知れない。
こういった設定や描写が胸を打つのだと思う。
原題は兄の名前、ジャック。
捻りの無い、詰まらない題だと思った。
けれど、最後の場面で知らされる。
あなたは誰だ?との問いに誰でもない、ジャックという人間だと胸を張る。
名前こそがこの不安定な物語において、唯一確かなものだった。