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ヒメアノ〜ルのnotitleのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.9
序盤は思い切り笑って、中盤はひとしきり恐怖して、ラストシーンは心を揺さぶられた。
ムロツヨシとか出ている序盤の明るいギャグみたいな雰囲気からシームレスに残虐な雰囲気に切り替わっていくのは意図的な演出だろう。
今の時代の光と闇をいっぺんに見せられた、そんな気持ち。

『冷たい熱帯魚』のでんでんとか『凶悪』のリリー・フランキーとかピエール瀧がリアリティがあって怖いかと思っている人がいるかもしれない。
しかし本当に怖いのは本作の森田剛なのだ。小賢しい計算など無くて、がむしゃらで、一切の躊躇もなく人を嬲る、犯す、殺す。
しかし、この森田を映画の中だけの異常なサイコキラーと断じてしまうことはできない。
ついこの前まで普通だった人が、突如として豹変して常軌を逸した行動に出ること、実は世の中に結構ある。私はそれをよく知っている。

『ちはやふる』は2016年を飾る明るい邦画の世界を見せてくれたが、本作を見て「ああ『ヒメアノ〜ル』には勝てない…」と感じてしまった。何故って、森田剛は私たちと地続きの場所にいるのだ。千早や太一があの森田剛に襲われたらどうやって生き延びるのか! ジャンルがどうとかいう話ではないのだ。

映画はジャンルの垣根があるが、現実には垣根が無い。ちはやふるのように楽しい人生を送る人がいる一方で、残酷に残虐に人が虐げられて殺されるような現実が、紛れもなくそこに存在する。
それこそ森田のように、異常でもなんでもなかったごく普通の心が壊されて、あんな風に豹変してしまうこと。全く他人事ではないのだ。
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