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グランド・ジョーのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

グランド・ジョー(2013年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

南部の田舎町で暮らす男ジョーには前科があったが、現在は森林伐採業者として真面目に働き、人々から慕われていた。ある日彼は、仕事が欲しいという15歳の少年ゲイリーを雇うことに。ゲイリーは酒に溺れて働かない父親の暴力に耐えながら、母や妹を養っていた。一緒に働くうちに信頼関係を築いていくジョーとゲイリーだが…。

借金返済のため手あたり次第にB級映画に出演しまくるニコラス・ケイジ主演作の中で見つけたリアリティに溢れた良作。
過去の犯罪歴に振り回されながらも真面目に生きようとする男と、父親の暴力と貧困に耐える少年との交流を描いた人間ドラマの秀作。

何がリアルかというと、それは我々日本人には華やかなイメージがあるアメリカに於いて、群を抜いた「貧困」の描写。

教養がなく、仕事も金もなく、犯罪に走って刑務所入りは当たり前。
酒飲んで売春宿に行くことが最大の娯楽。
おそらく彼らの子の世代も同じことを繰り返すのだろうと思わせるほど閉塞感に満ちた辺鄙な田舎の空気感。

まさに格差社会のド底辺の暮らしだが、そんな環境においても比較的マシな状態にある主人公・ジョー。
地元の黒人たちに仕事の世話をして、ちゃんと給料も払い、偉ぶる訳でもなく、信頼される男。
まともに働いているだけでも、この町ではヒーローなのだろうが、ストレスが溜まると破滅的な衝動が顔を出す。
そんな訳アリオヤジがニコラス・ケイジにハマっている。
そんな彼と、酷い家庭に育ちながらも彼に憧れる少年・ゲイリーとの本当の親子のような交流が、なかなかに感動的。

ジョーとかつてバーでトラブルを起こしたチンピラのウィリーは密かに彼への復讐を誓っていた。
ある日、ジョーはウィリーに発砲され、肩に怪我を負う。
ジョーを慕うゲイリーはそれを知るとウィリーと乱闘沙汰を起こす。

怪我で治療中のジョーの元に、母の恋人から性的虐待を受けていたコニーが助けを求めて来るが、見返りなど求めず、黙ってコニーを匿うジョーの優しさよ。

一方でゲイリーは稼いだ金を全て父ウェイドに巻き上げられ、相変わらず暴行を受けていた。
ジョーは金を貯めて車を買いたいと言うゲイリーの純粋な向上心を応援し、次第に友情を育むようになっていく。

しかし、ゲイリーの父ウェイドの暴力癖はさらにエスカレートし、遂には殺人をも犯してしまう。
これが、ホームレスが持っていた酒を横取りするために殴り殺すのだからエゲツない。

ある日、ウィリーがゲイリーの妹を侮辱したことに激怒したジョーはまたしても乱闘沙汰を起こし、興奮状態に。
発散しようと向かった売春宿で自分に吠え付いてきた犬を愛犬フェイスに襲わせる。

乱闘騒ぎのせいで留置場に入ったジョーのために、ゲイリーは行方不明の愛犬フェイスを探しあて、ジョーはお礼にとゲイリーに愛用のライターを贈る。
それまでになく饒舌に「大人の男とは」を語るジョー。
家族を持たなかった孤独を、息子ほどの年齢のゲイリーで埋めようとしている姿が切ない。
帰り際にふらつき歩くウェイドを見つけたジョーはウェイドに「ゲイリーの邪魔をしたらぶちのめしてやる」と警告する。

ジョーは新車を買い、これまで乗っていた愛車をゲイリーに譲る。
大喜びのゲイリーだったが、ウェイドに車を奪われた上、母と妹を連れ去られてしまいます。
ウェイドはウィリーとつるんで母と妹を売春宿に売ろうとしていたのだ。
もう、家族を売るという最低の行為。
ここまで来るとウェイドの行動は貧しさのせいだとか、世の中が悪いんだ、などと同情などしてやれないほど人間のクズ。

ジョーとゲイリーは母と妹を助けに向かう。
ジョーはゲイリーの母と妹を救出し、ゲイリーは彼女らを車に乗せ、警察を呼びにその場を走り去る。
その間、ジョーはウィリーとその仲間たちと決着をつけるため闘いに挑み、致命傷を負いながらもウィリーらを殺害。
最後はウェイドを追い詰めるが、観念したウェイドは橋の上から自ら身を投げて自殺する。
今後、誰からも見離される人生を儚んでの自殺に見えるのが悲しい。

ゲイリーが警察を呼んできた時にはジョーはもはや手遅れで、ゲイリーはジョーの最期を看取る。
ゲイリーはジョーの車と愛犬フェイスを引き取り、新たに植林の仕事に就く…。

閉塞的な環境と孤独で単調な毎日に鬱屈していたジョーが、自立心と向上心に眼を輝かせたゲイリーに出会う。
最初は「可哀想に」という同情、雇用主としての親分肌が顔を覗かせ、最後には息子のように「守ってあげなくては」と思う。
しかし、他人の家庭の問題に口を挟むべきか?と葛藤も見せる。
その苛立ちのストレスを抑える、抑えきれないを表現するニコラス・ケイジのキレ芸のバランスが絶妙。
ゲイリー役のタイ・シェリダンも暗い瞳を活かして反抗期と自立心を良く表現している。

貧困と虐待の丁寧な描写の積み重ねは、さすがに気が滅入るのが難点。
しかし、現実から目を背けてはいけないという製作陣の気概を感じる。
伐採の仕事から植林の仕事に移るのも、虚しい破壊から未来への創造に移るようで、ゲイリーの明るい未来を暗示しているのも良い余韻を残す。

自己犠牲の末に、男の生き様と車を若者が受け継ぐ辺り、本作はニコラス・ケイジ版の「グラン・トリノ」と言うべき作品だろう。

それにつけても、同情の余地の無いあまりにもクズな父親ウェイドを演じたゲイリー・ポールターが強烈な印象を残す。
これまで見たことがないため、隠れた演技派のベテラン舞台俳優か?と思ったら、調べてみたらなんと本物のホームレスだそうだ。
キャスティング担当がテキサスで偶然見つけたホームレスを使ったと知った途端、背筋が寒くなった。
彼こそ最下層の人間そのもの。
ニコラス・ケイジをも食う迫真の演技?は一見の価値があるだろう。
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