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眠りの森~新参者・加賀恭一郎~のてつこてつのレビュー・感想・評価

3.2
前夜に観た劇場版「麒麟の翼」が、余りにも豪華キャストで作品の完成度も高かったため、2時間テレビスペシャルに戻った本作は、やはり色々な面で見劣りがしてしまった。

バレエ劇団が連続殺人の舞台となるため、日本最高峰と言っても過言ではないKバレエカンパニーが全面的に協力している点は凄く、「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」の上演シーンや練習風景には、本物のプリンシパルやソリストクラスの団員が参加し、ちょっとした台詞のある演技もさせるなどリアリティを追求している点は素晴らしい。

が、逆に、バレエの実力や経験があるキャスティングせざるを得なかったため、これまでのシリーズのキャスト陣と比較してしまうと、どうしても、若干の地味さが否めない。キーパーソンであるプリマドンナを演じた音月桂は、バレエシーンでの実力には説得力あるが、宝塚の男役出身ならではの独特のクセがある演技が気になって仕方なかった。

石原さとみも、もちろん、一番重要な役どころではあるが、この作品では複雑な人間関係が絡み合ってくるため、登場人物も多く、彼女自身の出演シーンがこれまでのシリーズのメインキャストたちと比較するとやや少なく物足りなさを感じてしまった。但し、重要なシーンでの演技は見事だし、彼女自身がクラシックバレエを習った経験があるのかどうか定かではないが、引いた画のダンスシーンはプロの吹き替えだろうが、腰から上のアップでの身体の動かし方がちゃんとバレエダンサーらしくサマになっていて驚いた。相当、練習したんだろうな・・。

序盤の重要なシーンでもある「白鳥の湖」の黒鳥役のクライマックスの見事な連続ピルエット・・あれ、どうやって撮影したんだろう?さすがにあれはプロじゃないと披露できないテクニックだし、だけど、顔はハッキリと石原さとみ。「タイタニック」みたく吹き替えのダンサーの顔の部分だけ合成したのだろうか??

他のキャストにどうしても小粒感が否めないので、逆に個性的過ぎる柄本明のキャラクターが悪目立ちしてしまったのも勿体ない。

何と言っても、これまで観てきた三作品が、全て、誰もが共感できる家族の絆をテーマにしていたものだっただけに、今作は、バレエダンサーというプロの世界での、非常に特殊な人間模様が主題として描かれているので、自分にはそこまで響かなかった。

ストーリー自体も、余りにも出来過ぎた内容で、事件の真相も、ちょっと強引だし、無理矢理感を感じるなあ。

スペシャル感を出すために、阿部寛一人でのニューヨークロケを敢行しているが、刑事役、アパートの管理人役といったアメリカ人のエキストラ俳優さんたちの芝居が弱くて、かえって逆効果になってしまっている。

冒頭での阿部寛&仲間由紀恵の共演シーンは「トリック」ファンとしては嬉しい限り。「トリック」はテレ朝ドラマ、かたやこちらはTBS。本来、両者ライバル関係にある民放製作のドラマで、このような粋な取り計らいは洒落ている。

この「新参者」シリーズ、連ドラシリーズ→スペシャルドラマドラマ「赤い指」→劇場版「麒麟の翼」→スペシャルドラマ「眠りの森」→劇場版「祈りも幕が下り歩時」の順番で観るのが正解とのこと。
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