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ウイークエンドのkinoのレビュー・感想・評価

ウイークエンド(1967年製作の映画)
4.0
追悼特集上映の一環で鑑賞。1日2本からの鑑賞はそれなりに疲れるもので、ウトウトしないことを目標に(笑)今月はゴダール強化月間となりそう。

パリの街を颯爽と軽やかに駆け抜ける車ーー初期ゴダール作品によく登場するカッコいいシーンだが、本作ではその車の扱いが実に乱暴。渋滞による停車、衝突事故、挙げ句は横転して炎上…暴力的で不穏な雰囲気が漲っている。滑らかであるはずの運動は、そこかしこで停止や迂回を余儀なくされ、方向を見失って彷徨する。

バイオレンスアクション?犯罪劇?それともロードムービー?関係に倦んだ男女(夫婦)、その愛憎、よからぬ企み、そして二人は車で旅に出る。奇怪なトラブルの数々、目的地には一向に辿り着かず、不可思議な世界へと迷い込んで…。ドタバタの悲喜劇は、不条理な切断を経る度に勢いを増して前へ前へとつんのめり、最後はまさしく「人を食ったような」結末を迎える。

ゴダールの『ウイークエンド』ってどんな映画?そう聞かれたら、取り敢えずは、金とセックスのことしか頭にない腐敗したブルジョワを徹底的にこき下ろす社会派風刺作とでも答えておこう。エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』からの(と思しき)引用が印象的だが、どこまで本気なのかは判断がつきかねる。あるいは、『気狂いピエロ』をよりシニカルに、ダークにして過激化した作品とでも答えておいた方がいいだろうか。
しかし、先の読めない断片的エピソードの連続、本筋(そんなものがあるとしてだが)から脱線しまくった逸話の寄せ集めのような本作を観れば、そんなざっくりした要約をしたところで、何の意味があるのだろうかと思ってしまう。

だからこそ、本編を観るしかない。本作を構成する映像を一通り目にして、これを体験するしかないのだ。そして、意外と最後まで観れてしまうのが不思議なところ。なにせ、男と女の物語であり、犯罪劇であり、アクション&ロードムービー等々なのだから、映画の面白さをぎゅうぎゅうにーー破綻寸前までーー詰め込んだ、サービス精神てんこ盛りの超娯楽大作のはずなのだ。これで面白くないはずがない!(笑)。ならば、アタマを空っぽにして爆笑&ハラハラ・ドキドキ、最後まで楽しむほかないだろう。「ストーリー」の要約や作品の「メッセージ」なるものを知って観た気になれるのなら「映画」とは一体?映画は文字通り「見てのお楽しみ」なのだから。

娯楽的商業映画の様々なジャンルを網羅して一本に集約することで、そうした類の映画を突き抜けてしまった…?ならば、次に探求すべきは映画の「新たな形式」となろう。いずれにせよ、ゴダールは本作を以て、商業映画からしばらく遠ざかったという。
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