ジャンキーの意見

雨にゆれる女のジャンキーの意見のレビュー・感想・評価

雨にゆれる女(2015年製作の映画)
4.8
半野監督の音楽名義でマルチフォニック・アンサンブルというのがあって、もう20年は前になるリリースのアルバムを昔よく愛聴していた。佐々木敦氏がライナーを書いていたような気がして、そこでは「ドラムンベースのスタイルをとりながらドラムンベースへの批評性を内包したサウンド」みたいなことが言われていた記憶がある(手元にないから定かではないんですが。間違ってたらすいません)。確実にドラムンベースのスタイルで打ち込まれたトラックでありながら、いわゆるダンスフロア向けのドラムンベースとはしかしどこか違ってもいる、そんなふうになにやら心がゾワゾワとくすぐられてしまうような不思議なアルバムだったという印象があって、まさにそれと同じような感覚がこの映画にもあった。
それほど複雑な話でもなく派手さがあるわけでもなく、こんなふうな人間関係を描いた映画は過去にもあっただろうしだからさほど目新しいことをやっているわけでもなくて、普通の映画らしさの愉楽を普通に味わうことのできる普通の映画、と見ることだってできるのだけれど、しかしそれだけではないなんともいえない緊張感にとらわれてしまう。それを監督がかつて作ったドラムンベースがそうであったように、映画表現への批評性を内包した映画表現がもたらすなんらかの《震え》とでも呼んだら大袈裟かもしれないけど、普遍的映画というスタイルに沿いつつもそのスタイルの殻を破ろうとしてあえて破らないような、あるいはなかなか破れないような状態が持続することによって起きる表現の《震え》によって感受性が心の奥底からくすぐられてしまう。そんな興奮状態が充溢した傑作。