夭折の天才歌手エイミーワインハウスの一生を映画化したドキュメンタリー『AMY』は、よくある秘蔵映像集などではなく、極めて今日的な、メディアと大衆の政治学についての秀れたフィルムであり、ほとんど奇跡的な編集によって、いかに我々が彼女を失ったかということを明らかにする恐ろしい悲劇でもある。
冒頭、我々一ファンは、デビュー前に彼女が友達にハッピーバースデーを歌うシーンに感動する。そのほとんど鼻歌混じりの歌声に十分過ぎるほど後の成功の芽を見るからである。ここで、我々は後の成功を知っている分、その恵まれた友人よりも特権的な位置でその歌を聴いている。
レコード会社に売り込みに行くシーンもそうだ。社長だったかプロデューサーだったか、巨大音楽ビジネスのトップを前にギター1つ生声で歌いその場でビッグな契約を掻っさらう彼女の漫画的な展開に胸が高鳴る。ここでも我々は、その社長よりも特権的な位置でその歌を聴いている。
しかし、世界的な大ヒットの後すぐに我々の立場も危うくなる。友達や社長の視線に返された美しい歌声は、最も返されるべき、フェスに集まった五万人のファンには返されない。特権を失った我々は歌声を聞けなくなり「歌わないなら金返せ」と罵倒するファンの視線と一致する。そしてその怒りと好奇心に満ちた視線は、眩いばかりのフラッシュを焚くパパラッチの視線に重なっていく。その視線の集中放火の先に返されたのは、ビニールシートに覆われた彼女の死体である。
