近本光司

お遊さまの近本光司のレビュー・感想・評価

お遊さま(1951年製作の映画)
3.0
煤けた障子の向こうに見える庭の立ち木が若葉をつけている。床の間で産褥に苦しむお静は、東京に越してからげっそりと痩せこけた夫に、かつてあの京都の格式高きの旅館で取り持たれた見合いで目にした若葉のことを語る。あのとき二人の脳裏に蘇っていたのは、そこで若葉がおきれいねと口にしていたお遊さまの姿だったとおもう。九〇分そこそこの尺とは思えないほど脚本は散らかっているのだが(いったい幕切れはいつなのかとやきもきした)、妙に生々しくて記憶に残るシーンがいくつかある。日射病で倒れた田中絹代が堀雄二に介抱されている場面で、田中絹代が薄らと目をあけて寝返りを打つときの艶やかさ。東京の下宿先のそばを流れる水路の薄暗さと蝦蟇がかまびすしく鳴きわめく音(京都の鈴虫の鳴く静けさとは対照的)。田中絹代のこちょこちょを目撃した女将さんに関係性を勘違いされて気まずくなる三角関係。しかし堀雄二の役どころは気色が悪いうえにあまり記憶に残らない。けっこうヤだなあ。翻って姉役のひとは良かったなあと調べてみると、平井岐代子、107歳でご存命。と思ったら、没年不明とある。どっちなんだ。