YokoGoto

LION ライオン 25年目のただいまのYokoGotoのレビュー・感想・評価

3.7
ーインドとオーストラリアの家族たちから教わる、家族の本質ー

インド映画で『スタンリーのお弁当箱』という映画がある。2011年の作品で、インドで社会問題になっている児童労働をテーマにした社会派ヒューマン・ドラマで、とても大好きな映画である。(機会があれば、ぜひご鑑賞ください)

昨今、インド映画は『ボリウッド映画』と呼ばれ、あの独特な作風は、ハリウッドとも違う風合いで、なかなかのものがある。

本作は、そのボリウッド映画ではなくハリウッド映画であり、今年のアカデミー賞でも6部門のノミネートを誇る良作とされた作品。しかし、テーマがインド社会の深刻な問題を浮き彫りにしているのと同時に、映画の半分くらいがインドでの撮影シーンが締めるため、インド映画かと見間違うかもしれないなと思った。

ただ、ボリウッド映画のクオリティもなかなかのものがあると感じる反面、やはりハリウッド映画としてインド社会をテーマにした作品を観ると、『ハリウッド映画はやはり流石だなぁ』と正直な感想。

あの『英国王のスピーチ』の製作スタッフによる作品であるので、映画としての基本的な品質が高いのは、言わずもがなという所だろう。

まず最初に、本作は25年前にインドで迷子になった5歳の子どもが、オーストラリアの夫婦に養子に入り、すくすく育つが、25年目にしてGoogle Earthで生母と生家を探しあてるヒューマンドラマである。

様々なTV番組で取り上げられた経緯もあり、ある意味、話の筋はネタバレされてあるという認識のもので観る映画である。よって本作は、どうやって生母を見つけたのか?という点の描写は薄く、ある意味、あえて深掘りされていないのが特徴的。

つまりは、どうやって探し当てたかという点が大事なのではなく、主人公であった5歳の子どもが生きていたインドの社会派どのような社会だったのか、その後、どのように生き延びたのか、そして養子になった先で育まれた養父母との関係性など、完全にテーマは社会派であった。

主人公と生母や養父母との関係性の描写が丁寧で、これらの描写から『家族』というものの本質を描いた作品に仕上がっている。

そのメッセージ性を十二分に表現させた重要な存在が、5歳のサルー役(主人公)と大人になったサルー(デヴ・パテル)の名演である。
とくに、5歳のサルー役を演じた子役のひたむきで可愛らしい姿は絶妙であった。その後も、その人懐っこさをリレーでつないだデヴ・パテルもお見事。

さらに、オーストラリアの養母であるニコール・キッドマンも素晴らしい。微妙な親心を表情一つで表現しきるあたりは、オスカー女優の威厳とも言える。主人公のサルーと同じくらいに、重要な役割だったのが養母のニコール・キッドマンであったから。

逆に、恋人役だったルーニー・マーラは存在感が薄い。この役だったらルーニー・マーラでなくても良かっただろうに。(笑)Big Nameが欲しかったのかな?と気持ちは分からないでもない。

25年前のインド社会は、決して子どもに優しい社会ではなかった。今はどんな社会なのかは分からないが、今でもインドで迷子になる子どもが多いという現状から、この映画でも描写されている様々な問題はまだ顕在化しているのではないかとも思う。

児童労働、人身売買、子どもの虐待、教育の格差、文盲などなど、世界では子どもを取り囲む、様々な問題がある。人間における『家族』という最小単位はかけがえの無いものではあるが、もっと視野を広げて、世界全体を家族として観る視点というものも必要なのかもしれない。

最後に、タイトルのLIONはお見事でした。(笑)
YokoGoto

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