Goach

マネー・ショート 華麗なる大逆転のGoachのレビュー・感想・評価

3.9
金融市場の崩壊を予見したトレーダーたちを描いた群像劇。

本作を、マネーゲーム作品として鑑賞するとミスリードが生じると思います。本作は「金融業界への怒り」を体現した作品です。

市場の崩壊を予見した人間がいた。というと、勝者と敗者が生まれ、主人公が巨万の富を得るサクセスストーリーと思うのが普通ですが、本作はそのような描き方をしていません。世界金融危機を招いた、悲惨すぎる出来事を題材にしているので、主役を「勝者」とは描けなかったのだと思います。震災の映画があったとしても、大震災を避けた人を「勝者」とは言えないのと一緒です。

なので、大金を掴んだ瞬間も抑揚なく、ある種淡々と描いています。彼らも「誰かの人生が終わった瞬間」でもあると認識しているのだから。
やり場のない怒りは、馬鹿げた金融業界全体へ向けられているようでした。合成CDOやデフォルト後の債権が、まさにそれ。

誰が主人公か見分けるのが難しいくらい、複数の話が独立して展開されます。それらを繋ぐのは時間のみ。様々な立場で、Xデーの到来を待ちます。

史実に基づいた作品なので、次の展開が大体分かるということもあり、「演出」にやたらと力を入れた作品です。特に、カメラワークや音楽が素晴らしい。メルトダウンへの高鳴りや崩壊後の喪失感など、主人公たちの心境を憎いくらい表現しています。


サブプライム問題とは何だったのか、世界金融危機へとどのように繋がったのかが、綺麗にまとめ上がっているドキュメンタリーに近い作品です。

ただ、経済用語や外資系投資銀行についての知識がないと、ストーリーに置いていかれると思います。サブプライム問題自体が複雑なので、付け焼き刃の予習もオススメしません。


当時の金融市場について理解したい方にはオススメ。
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