TakimotoKohei

二重生活のTakimotoKoheiのネタバレレビュー・内容・結末

二重生活(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

単純に面白かった。
その理由としてまず初めに挙げられるのは役者たちの演技だろう。生々しくて、リアル過ぎた。だからこそ、主人公の行動1つ、脇を固める俳優たちのセリフ1つが肌にチクチクと刺さる。のめり込んでしまう。
この物語の主人公、門脇麦演じる白石珠はいっけんどこにでもいそうな、平凡な大学生だ。もちろんそういう役柄であるし、尾行の対象者A役の長谷川博巳にも平凡でありふれていて陳腐な人間だと評される。仕様のないことで悩み、今まで前に進めずにいた彼女が心の隙間を埋めるきっかけになったのが尾行である。リリー・フランキー演じる篠原教授の助言によって、修士論文の研究方法として尾行を選択した彼女は、初めは尾行という好意に戸惑いや後ろめたさを覚えるも、次第に他人の秘密を知ることに楽しさを見い出し、やめられなくなる。
視点が終始、珠から観た世界、といった撮り方をしているので映画を観ている自分までもが尾行しているかのような錯覚を覚える。感情移入し、抜け出せなくなる。だからこそ、彼女が対象者を尾行している時や対象者と接触してしまった際には心臓を手で握られているかのような緊張感を感じたり、逃げ出してしまいたくもなった。長谷川博巳の珠に対する侮蔑や、軽蔑の言葉も自分の中にすんなりと受け入れてしまうほどに、珠に入り込んでしまっていた。カメラワークや編集技術、監督の脚本、構成に感嘆するばかりだ。それらがなければここまでこの映画に没頭することはなかったと思う。
自分の人生に、満足している人間なんてこの世には存在しない。全てが満たされることなどない。誰もが持つ心の隙間を埋める方法は秘密である。誰しもが皆、同じように誰にも言えない秘密を抱えている。だからこそ、それを一方的に知ってしまうということはとても罪深いことであるし、他人からすれば、対象となってしまった人間からすれば、腹立たしいし、気色が悪い。世の中には知らなくていいことがゴロゴロあるし、知りたくもないことが山程も海程もある。自らのエゴを貫き通した珠に形として残ったものは修士論文だけだった。菅田将暉演じる卓也と過ごしたアパートも引っ越してしまった。論文を完成させたことで彼女の心のモヤモヤは晴れたのだろうか。ラストシーンの横断歩道で篠原教授を残して前に進んで行く彼女の表情はとても悲しそうに見えたんだけど。