空衣

二重生活の空衣のレビュー・感想・評価

二重生活(2016年製作の映画)
4.3
門脇麦さんが哲学修士、萌えました。神設定ありがとうございます。そして言われるがままに尾行する意思のなさは、哲学の根底を揺るがすクズっぷり、

しかしながら
その「空っぽ」に向き合うためにこそ、この論文は書きたい、という渇望は響きました。というか、自分もそうだから。


言葉を紡ぐのであれば、他者を通して自分自身と向き合わなければならないから。大切なひとを失う覚悟で、憎まれる覚悟で。
(とはいえ、たぶん珠は、自身へ向けての覚悟は出来つつあったのだろうが、他者へ向けての覚悟は持っていなかったのだとおもう。)


昨今の風潮は「ありすぎるのに、ない」ことだとおもうのです。モノもヒトも情報もありあまっているのに、本質は空っぽじゃないかと。

けれども本作は、「なさすぎるのに、ある」という見事なドーナツ化現象から成っている物語。主人公の珠は、言動だけとれば“なにもしていない”んですよ。
にもかかわらず、尾行対象者の生活を踏みにじった(という扱いになった)り、恋人には離れられたりする。出来事を起こすのは、珠の“周辺”です。


そうやって自分の空白と向き合い、残ったのは好成績の修士論文。哲学をこねくり回して言葉を編み出すなんて本来ムリなことでしょう、言葉って恣意的で、絶対的ななにかなど無いということはわかりきっているのだから、何を書いたってムダなんです。
自分だって他者だって、言葉さえも、「くだらねーな」で一喝できる世界に対して、他者に伝えることを前提として自分の内側から押し出した言葉で「実存」を述べる、って徹頭徹尾パラドックス。苦しい自己矛盾だ。


その非道さに向き合う手段、もしかしたら“唯一の道”だったのが、本作ではまさかの尾行だったという。
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