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二重生活のりのレビュー・感想・評価

二重生活(2016年製作の映画)
3.8
修士論文のために「理由なき尾行」を始めることになった。対象者の「二重生活」 を垣間見た備考者は様々なことを悟る。
理由なき尾行。それは、他者の人生の一部分を垣間見ることである。対象を追いかけることによって、他者の人生を、すなわち物語を追体験することができる。また、想像力を行使することで、「他人の場所と立場に身をおくこと」ができ、結果的に「互いの人生、情熱、意志を知る」ことができる。つまり、他者を通して自己を知るのである。
主人公は「心に巣食う空虚さ」に悩まされていた。しかし、他者も同じように悩んでいることを知り、「陳腐だ」と悟ったに違いない。そして、その「苦しみに満ちた人生」を、少しでも楽しく生きるために必要なのが「秘密」であることも悟る。
秘密。それは誰しもが抱えるものである。しかしながら、親しい間柄、例えば恋愛関係などにおいては、あってはならないもの、あるいは教えあわなければならないもの、として見なされる。だが、本作を観るに、そして経験上、相互に秘密があるからこそ円滑にやっていけるのではないか、と思う。例えば、恋人がいる男が何らかの弾みで、他者とワンナイトを過ごしたとする。彼は罪悪感に苛まれ、相手に告白する選択肢をとる。案の定、彼女は怒り狂い、別れを考える。この例は身近であったことであるが、なんと愚かなのだろう。それを秘密として保持し、上手くやっていけばいいものを。第一、罪悪感を覚えるくらいなら鼻からすべきではない。そして、罪の意識を自分で処理し、新たな気持ちで関係性を構築すればよかったのではないか、と思う。
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