とねま

ジーザス・クライスト・スーパースターのとねまのレビュー・感想・評価

4.5
2023年に見た映画で最高に面白かった作品。
Heaven on their mindsとSuperstarの二曲に特にハマってしまった。

ユダやマリアをはじめ、キャストの面々がみんな歌が上手い反面イエスの歌唱力が一段劣っているように感じた。しかし逆にそれがいい味を出しているもので、周囲の的外れの期待と神から背負わされた重荷に次第に耐えきれなくなっている悲壮さを歌う時には、実力よりもパッションで歌う姿が感動的だった。

自分は新約聖書をまだちゃんと読んでいない(現時点で「ヨハネの福音書」の半分くらい)のだけど、この映画の描写は新約にかなり忠実ゆえに斬新に見えるものだと思った。ユダ以外の11人の使徒はイエスの教えを真に理解することなく、彼が新たなユダヤの王になってくれることを望んでいる。
ユダ自身が何を考えていたのかは自分が読んだ限りの福音書には明確に書かれていなかったと思うが、この映画ではユダに面白い役回りを与えている。彼は常にイエスを最も理解する人間であり、イエスが自身を誤解するような人間たちを周りに従えていることに危機感を持っている。冒頭のHeaven on their mindsでは「イエス、お前は周りの盲目の信者たちが言っていることを信じはじめているな?」「彼らは(政治的な)メシアを見つけたと思っているが、それが間違っていることがわかった途端にお前を傷つけるだろう」と忠告している。しかしこの訴えはイエスや信者たちの誰にも聞き入れられることはない。使徒やパウロがイエスの教えや生き様を曲解したという解釈はニーチェが『反キリスト者』で行っていることではあるが、このユダはそれを超えて、イエス本人にも批判の矛先を向ける。
最後のSuperstarではユダはこう歌う。「俺にはわからない。なんだってあんたはあらゆることを手に負えないようにしてしまったんだ?」「今日だったらあんたは本当にワールドワイドな存在になれたのに、なんだって未熟な時代の辺鄙な場所を選んだんだ?」「イエス、イエス、あなたは何者で、何を犠牲にしたのか?(コーラス)」と。Youtubeに上がっているSuperstarの動画のコメントに「もしあなたがキリスト教信者であっても、これらの問いについてこれまで真剣に考えたことがなければ、あなたは本当に教えにコミットしているとは言えない」というのがあって面白かった。この映画が上映されていた頃、カトリックの一部の信者によって上映映画館が焼き討ちにされたというけど、むしろこの映画がイエスの真実に肉薄している(問うべき疑問を立てている)という批評もあるのだ。
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