twin

サクラメント 死の楽園のtwinのネタバレレビュー・内容・結末

サクラメント 死の楽園(2013年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

9・11 以前で最悪の事件を元にしたPOVドキュメンタル作品。

突撃取材で他社よりも一歩踏み込んだ番組を制作するVICE社のサム、ジェイクは、カメラマンのパトリックに寄せられた妹からの手紙の内容を不審に思い、「楽園」の取材へと向かう。

最近見たPOVの映画の中では飛び抜けて面白かった作品。
ホステルなどを手掛けたイーライ・ロス脚本の作品なのだが、Flimarksでは反映されていない模様。氏が好きな方には是非オススメしたい作品だ。

リアルさを追求したPOVとしては、狙った演出が多く出ていた印象(定点のカメラに映る人影や、楽園から一時脱出した放置したカメラにジェイクの追手がすぐに現れるところなど)だが、「楽園」の異常さをうまく描き出していたと思う。

惜しむらくは、暴力のない完全な社会の構築を目指す、住民から「父親」と呼ばれる男の信念めいたものがいまいち伝わってこなかったこと。
実際の事件を起こしたジェームス・ウォーレン・ジム・ジョーンズという男は、社会主義に傾倒した男だったようで、実際の組織である人民寺院という宗教団体のWikipediaの記述を読むと、幅広く活動を行っていた男である。

その集大成が「楽園」の構築であるため、それを映し出す物語としては男の思想などは伝わりづらいのかもしれないが、作中のサムと「父親」とのインタビュー(実際にサムは話をはぐらかされたと感想を漏らしている)や、集団自殺に至る際の「父親」のスピーチ、更にその死に際のシーンから、彼が何を一義として教祖という立ち位置にいるのかがあまり伝わってこないのだ。

死に際で「もう疲れた」と発言して、銃で自殺するところを最たるものとして、自殺を煽る様子からも、目的が「集団自殺の実現」に向かっているようでならない。
実際の事件でも、ジョーンズは同胞の信者の死を目にして躊躇う信者たちの様子を見兼ねて、頻りに自殺を煽っていたようであるが、この辺りの再現なのだろうか。

しかし、目的の潰えた男の諦観や、自らも集団自殺を煽っておきながら、最後に「みんな死んだ。あんたたちのせいだ」と喚くパトリックの妹キャロラインの様子が、凄惨な現場を目にして精神が侵された人間の生々しさをよく表現できていたとも思うので、そこは一長一短かもしれない。

しかし、個人的には楽園からの脱出を望む母娘の娘がサム達に「私達を助けて」というメモ書きを渡したところで、不穏な雰囲気の漂う作中の雰囲気が、更に一気に重くなるのを感じられたところが良かった。
それまではカルト教団の信者たちの狂気(我々から見て異常なことを常識として捉えている人間の異様さ)を描く映画なのかなあと思っていた分、そこで「当たり前(という言葉は便宜上用いる)」の人間が登場することによって、異常なのは「楽園」の環境だということに気付くのだ。
これこそが、本作の肝の部分なのではないかと思う。

なお、ここからは余談になるが、鑑賞後に何より驚いたのは、実際の人民寺院信者の集団自殺事件の犠牲者の数だ。
本作では120名程度ではあるが、実際には900名以上の被害を出した事件である。
人民寺院自体の信者数も一時は数万人を超えていたようで、いかに宗教とそれに対する信仰が、時に恐ろしいものへと変貌するかを思い知らされるところでもある。
私自身は無神論者な訳でもなく、かといって特定の宗教を信仰している訳でもないが、信仰を救いと捉える人間にとっては、宗教とはある意味危険なものなのかもしれないと思わずにはいられなかった。

人民寺院のWikipediaのページには「死のテープ」と言われる集団自殺の最初から最後までを記録した音声が掲載されており、それを聞くと尚更そう考えてしまう。
「死のテープ」に記録されているのは、死を安らぎと捉える者たちの安堵の声ではなく、子供やその親の泣き叫ぶ声なのだから。
twin

twin