こけとーこ

ロブスターのこけとーこのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.6
「独身者は45日間でパートナーを見つけないと動物に変えられてしまう」本作の土台となる劇中のルールを初めて耳にした時、頭の中に?がたくさん浮かんで理解が追いつかず、一体どんな映画なんだと恐る恐る鑑賞したら「愛とはなんぞや?」という王道の問いを意外にもシンプルに、だけれど一癖も二癖もひねりを加え突き詰めた唯一無二の作品世界で大好物な仕上がりだった。

こんなワケワカメなルールがまかり通る不条理な世の中で、パートナーを見つけようと皆躍起になりあの手この手を尽くすホテルでの前半から一転、今度は独身でいることを強制され恋愛関係ダメ絶対!なルールのもと、のどかにサバイバル生活を送る森での後半。
環境ともたらされるルールはガラリと変われどパートナーがいる状態と独身の状態、どちらの場合における良い面悪い面を馬鹿馬鹿しさと背筋も凍るおぞましさの隙を突いたグレーなユーモアで表現し物語が進むにつれ「愛ってなんぞや?」という問いがどんどん無駄を削ぎ落としグググイっと迫ってきて、これでどーだ!と静かに差し出すラストの余韻は細く長く後味を引いてやまない…。

前半登場する美しい金髪の女性が下したリバー・フェニックスという選択が、生きる為になりふり構わず誰かを愛そうとさえする世の中に落ち着き払った態度で堂々と中指を突き立てているようで、その颯爽とした潔さが痛快だった。登場人物の中で最も「愛ってなんぞや?」を曇らせず腹に据えていたのは彼女だったのだと思う。

相手に惹かれ、関係を構築する並びに継続させる為に目や脚、鼻といった身体的特徴から見出す共通点を重要視する法則が貫かれていて、いわゆる趣味や感性などの精神的特徴に共通点を見出そうとすると途端に関係が崩れる展開が何とも皮肉で滑稽だった。人を求め愛し合うのに共通点や理由の肉づけはどの程度、果たしてそもそも必要なのか?
ラスト含め観た人の恋愛観によって感想が相当バラける作品だと思うので、誰かとお茶のお供、もしくは酒のツマミに語らうのをオススメします。

追記。
映画の後半、のどかにサバイバル生活を送る森で独身者達が各自ヘッドホンを装着し、そこから流れてくる電子音楽の調べに合わせて1人静かに躍り狂う、通称ダンスパーティーなる場面が登場するけど、これと同じ発想のイベント、サイレントディスコが日本の夏フェス、サマーソニックで行われてるのを、まさか監督知ってるのかな…?と一瞬思ったものの、そんなはずないので出来ることなら「恋愛関係を禁止する独身者達の生活で登場したダンスパーティーと同じ発想のイベントが、日本では大勢の人が集まり老若男女問わず一丸となって音楽を楽しむ夏のフェスティバルで取り入れられているのですが、どう思われますか?」って監督に質問してみたいなー…そんな機会ないけど…。