キンキン

この世界の片隅にのキンキンのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
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 泣き顔を見せたくなかった。エンドロールの間に抑えようとしたけど次々と出てきて…。ずっとずっと我慢していたけど、おにぎりに「もう、止めてよ!!」って嗚咽が出るほど喉が詰まる思いで、帰路もそれを思い出しては俯いたまま。また見たい、とはすぐに思えない。

 描かれる花鳥風月に見惚れ、テンポよく物語が進むのであっという間。その中で「戦争」が日常を次々と崩壊していき、広島でこれから何が起こる分かっているだけに、刺さってくる。虫達はそんな事も知らず、塚本晋也監督の「野火」でもあったように自然は自然で並行して戦争の中で生きている。日常を丁寧に描いているので、「なんで、こんな事になってしまったんだろうか?」と振り返る気持ちで、劇場を出た後の帰り道は、戦争があっての今の日常なんだな、と。
 崩壊した街を見ると、3.11を思い出した。主人公のすずさんの声を担当したのが、「あまちゃん」の能年玲奈(のん)ってのもあって、あのドラマも本作のようにこれから起こる大地震に向かって物語が進む。「みつけてこわそう」とあっただけに、逆回転してくれないだよね。
 すずさんから見る戦争はポップで優しくて、そうでもなければ振り返りたくない。嫌な過去もある程度加工しないと辛さがずっと残ってしまう。どん底に落ちた気分だが、貧しくても工夫して生きている日々が温かくて、それを思い出さないと押し潰れてしまいそうだ。楠公飯のシーンは可笑しくて、美味しそうで、懸命に生きていて、すずさんの、あちゃーって顔。彼女がいることで、とても救われた気持ちになりました。

 個人的にだけど、すずさんがちょっと前に片思いしては連絡先を交換せずに会えなくなった人に似ていて重なって見ていました。絵も上手で、浮世離れしていて体も弱くてのほほんとしていて。
 悲しくて、辛くて、戦争が如何に悲惨だったのかを目の当たりにしては誰かと寄り添っていたい気持ちで、この世界の片隅に、会えるのならまた会いたい。
キンキン

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