キンキン

ムーンライトのキンキンのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
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 ショックだった。「ブラックムービー」って事で、麻薬だったり人種差別だったりと、黒人が出演する映画はそう言う内容が全面的に出てくる、と思い込んでいた自分に。と言っても、冒頭から麻薬密売人も出てくる。が、そういった社会の問題提起でもない。驚くほどシンプルな純愛物語で、「ラ・ラ・ランド」がアカデミー賞を逃した理由も、一方的で楽しめなかったと言う理由も、本作を見て分かった。こう言う黒人映画ってあまり見たこと無い。

 描かれるのは、一人の少年が男になるまでを3部構成で描いた普遍的な内容なのだけど、この映画が面白いのは、劇的な部分を省き登場人物を格付けしないように脚色していること。提示されると「こう言う人なんだ。」と印象を持つが、それを省く事で観客が「登場人物達に何があったのだろうか?」と考えては自分の過去を振り替える作りが見事。自分も見ている中で、関わるのが億劫になり数年前に着信拒否した嫌な奴や、受け入れる事が出来なくて別れた彼女だったり、を思い出しては、アカデミー賞脚色賞を受賞したのも納得。
 ラストしかり、人生を振り替える映画なんだ。海辺を見つめては目が輝き、シャロンが今の自分を受け入れる姿がジワジワと来た。

 幼少期、支えとなってくれる母親が信じられなくなる様子が怖くて、この時の傷や疎外感は、成長する中でもずーっと息苦しく残っているわけで、ナオミ・ハリス演じる母親が優しく声をかけながらも、それを信じられなくてシャロンが疑う部分とかさ居場所が無くて辛くなる。それが、フランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」を思い出すわけで、監督のバリー・ジェンキンスは映画が好きになったのはジャン=リュック・ゴダールなど外国映画を見た事がきっかけと語っている。
 「フランス語も喋れなければ、フランス語を喋れる人も知らないが、それらの映画に共感出来た」と。
 「ムーンライト」も、麻薬密売人など、日本では身近な設定ではないのだけど、東京に住む自分は胸を揺さぶられた。それは人生の一部なんだ語る事で、少年から男になるまでのシャロンを知り、冒頭の麻薬密売人であるフアンを思い出す。
 幼少期の心を開かないシャロンを海に連れていき、包み込むような愛情は見ているこっちも身を寄せたくなる。
 彼は、何故麻薬密売人になったのだろうか?
 フアンを演じる、マハーシャラ・アリは、本作で助演男優賞を受賞。出番はほとんどないが、この映画って背景を限りなく暈し人物をくっきり捉えているので、彼等の表情から感情が伝わっては印象に残るんですよね。それでいて、レンズフレアも含まれては、住んでいる街の美しさも。

 撮影もドキュメンタリーみたいな部分があって、紙くずを丸めてはサッカーをする子供達、鏡の前でダンスの練習をするシャロン、風呂の準備をするもお湯が出ないからコンロで沸かして温めては石鹸(洗剤?)を入れたり、と物語には関係無いけどそんな部分がある事でコミュニティの一部になったような錯覚が、体験を助長する。
 ヌーヴェルヴァーグに強い影響もあるわけで、「金歯(?)ってああやってとるのか。」「スプーンの持ち方が、如何にも。」だったり生活感が見てとれる。

 それで、ぐいぐい映画に引き込まれるわけですよ。だから、あまりに入り込みすぎては劇中に流れるスマホの着信音が自分のと同じだったので、「やっべ!!携帯の電源切り忘れたか!?」と勘違いしては、心臓飛び出るかと思った。
 そうそう、ニコラス・ブリテルの音楽も絶妙な包容力を持っていて、この日試写会で来ていたユーロライブの音響も良くて心酔したなー。だから、音響の良い映画館で見るのをオススメします。
 これが、作曲賞を外したのは意外だ。

 余談だが、試写会前に朝日新聞の夕刊を配られたのだけど、帰宅して開いたら何ページもデカデカと広告していて驚いた。そこにある台詞が、観賞後の余韻を高めたのは言うまでもない。
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