Aya

この世界の片隅にのAyaのネタバレレビュー・内容・結末

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

戦時中が舞台となる普通の女の子のお話、という前情報だけで鑑賞したが、個人的には今まで観た映画の中で一、二を争うほどだった。感動したというのとは違うけれど、なんでもないところでいくらか泣かされた。
絵のタッチは作中を通じて可愛らしいが、登場人物たちはみな飾り気のない普通の人で、特段勇気があるわけでも、美しいわけでも、人徳があるわけでも、才能を持つわけでも、運が良いわけでもない。戦争に関する具体的なメッセージや価値観の押し付けもない。ただ淡々と冷静に、けれど温かく、昭和初期を生きる女性の姿を描いている。それが心地良いし胸に刺さる。
特に印象に残ったのが、利き手を失った主人公に対して周囲があまり大きな反応をしなかったこと、そして、誰もが家族の死やその予感について粛々と受け容れていたことだ。いずれもあの時世では身近なことで、よくある不幸のひとつに過ぎなかったのだろうか。そんな中、唯一の宝物だった娘を失って涙し、怒り、赦し、呻く母の姿が物語に感情の色を添える。エンドロールは優しくも切なかった。
鑑賞後には余韻に浸り、このまま何も考えずに眠りたい、と思ってしまった。もう一度観るのはしんどいけれど、迷っていたら是非映画館へ足を運んでみてほしい。大きなスクリーンで観た方が良い作品だったと思う。

あと私の親戚は中国地方の出なので、広島弁はなかなか耳に心地よかった。おじいちゃんも若い頃はあんな感じだったのかな。それにしてもたったの70年前、私の生まれる50年前に、あんな時間があっただなんて想像もつかない……平和だ……。
Aya

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