山

この世界の片隅にの山のレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
5.0
私たちが戦争というものをリアルに感じるには正直限界がある。そう思う中、こんなにも現実味を持たせてくれた映画は初めてだった。

空から爆弾が降ってくることも、防空壕に入って過ごす日も、大切な人が兵役に行ってしまうような経験も私にはない。けれど出掛けた時に道に迷ったり、きれいな景色を絵に書いてみるような経験はある。食べて装って笑って泣いて怒って、この時代を生きた人たちは今を生きるわたしたちと何も変わらないことを教えてくれる。
それは「この世界の片隅に」が戦争の中の日常を描いたのではなくて、すずさんというひとりの女性の日常の中で起きた戦争を描いていたからではないか。

戦後70年以上たって、戦争経験者も減ってどんどん忘れ去られていく。この映画は戦争を忘れるなという説教には決してなっておらず、見る人の心の中にあるものと結びつけられるような要素がたくさんあるため、多くの人の心に自然と残っていく。
悲しいこと、辛いことを忘れないようにするのは難しい。でも悲しい出来事を暖かい映画の中に保存するという形でこの映画はそれを成し遂げている気がした。
山