しゅう

この世界の片隅にのしゅうのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.0
 開始から数分後の「風呂敷を背負う」描写。あれはすごい。風呂敷ってああやって背負うんだ。時代考証の徹底っぷりに驚くとともに、わたしたちはたった7、80年で風呂敷の背負い方さえ失ってしまうんだなあとしみじみ空悲しさを覚えた。次の7、80年後には靴紐を結ぶという概念すらなくなっているかもしれない。今現在の生活習慣に形作られる「わたし」の何と儚いことか。たった数十年でわたしたちは驚くほど多くの情報をロストしている。そのロストしかけた断片を拾い集めて、たった数十年前の異界を真摯に再現した傑作。十年に何度も出てこないような映画だった。
 戦争の時代の話ではあるけど、あくまでこれは「呉にお嫁に来たちょっと抜けてるすずさん」の話なので、気負わずただひとり分の喜びを喜び、ひとり分の悲しみを悲しむ準備だけして観ればいいと思う。わたしは目がヨボヨボになるくらい泣いて、ヨボヨボの目のまま帰り道に速足で書店に寄って原作漫画を買うくらい楽しんだ。書店の人には「うわこいつ絶対映画観て泣いてそのまま原作買いに来た単純なやつだ!」と思われたと思うけど本望だ。とにかくどんな層にもおすすめできる映画なので、ぜひ観てほしい。
しゅう

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