JIZE

残穢 住んではいけない部屋のJIZEのレビュー・感想・評価

3.1
怪談雑誌に連載を持ち読者の体験談を元に短編を執筆する懐疑的な女流作家と部屋で奇妙な物音を聞き手紙を投稿する女子大生とが"前住者の過去を遡る度に穢れが伝染する"曰く付き和製ホラー映画!!今年初の試写で監視!!証言や実物証拠を頼りに消去法で1歩1歩核心に迫る推理描写は割と楽しめたなぁ..邦画のホラー映画監視は久々!!小説版は未読です。まず竹内結子と橋本愛のW主演,両者抑え目な不気味さを醸し前者は物静かにボソボソ喋る感じと後者はハキハキ聡明な視点の筋が通る明瞭さを併せ持ち両者のバディ感は凹凸コンビで賞賛。簡単に邦題『残穢』とは"不浄"や"不潔"を指し要は霊や空気を示す用語。現代の日常では9割強使用しないですね笑。まず1番先(本論に入る前)に(監視中,心の奥底に鬱屈と潜む違和感)コレだけは告白させて下さい!!..予告文句「全ての謎が解けた時,驚愕のラストが待ち受ける!!..」と声高々に謳われ究極な転調が待ち構えているのかと此方側は(潜在)意識を奮い立たせ最高な状態で身を構えていた..結論言えば,この程度か!!!!~~~(絶望と虚無の連鎖),序盤で(中村監督の意気地な転調演出に)想像が付きました。クライマックスは1番ベタな落とし方。コレは想定の範囲内すぎましたね。全要素が覆り天変地異が起こる程の絵を想像していたが期待は裏目に。地味でロウテンポな作品です。

→作品概要。
小野不由美による同名ホラー小説を『白ゆき姫殺人事件(2014年)』や『予告犯(2015年)』の中村義洋監督が映画化。主演を演じる小説家の"私"役には竹内結子,女子大生の久保さん役に橋本愛,他に佐々木蔵之介,坂口健太郎,遠藤賢一らが脇を固めた。また本作は昨年10月に開催された東京国際映画祭で注目を浴び一般公募によるコンペティション部門にも選出されました。

えと..この先やや(物語的な構造の都合上)ネタばれ路線に突入します。微塵も先の展開を頭に入れず本作に挑みたい方はご遠慮下さい。(何点かセールスポイントを挙げれば)Jホラー映画に興味がある方はそこ1本でも並大抵には普通に楽しめる作品。主演女優目当てでも十分。緩急隔てず古典的な風味の和製ホラー映画が好みな方は是非お勧めです。

まず本作,話の構想を要約すればこういう事だと思う。要するに部屋に潜む奇妙な物音(怪奇現象)の起因を探るため前住者が辿った経緯を根拠に土地の歴史(事実)を何十年以上(大正時代まで)も遡り真相を炙り出す話,端的に表現すれば"事故物件を巡り穢れた因果が伝染する話"ですね。逆に捉えればお話のベクトル自体が常に過去軸1極を指し情報源となる土地の近辺で取材や訪問を元に証拠(伏線)を積み重ね数珠繋ぎに真実を結び合わす話の構造。監視後に振り返れば(主役側が)1歩蚊帳の外で間接的な物腰で話が進むため全編ドキュメタリぽかったかな。特に前住者の経緯を辿り事件と関連性が濃い重要人物に対し次々と取材を申し込み当時の状況(主に不可解な噂)を聞き取るインタビュー形式を取る意味では。

→恐怖描写の演出。
まず初めに予告でも披露された久保さんが住むマンションの部屋,主に和室から"箒で床を掃いているような音"が聞こえそこからひずみを付け公衆電話から曰く付き部屋の自宅宛に無言電話が鳴り響いたり,床から原因の大元が這い出たり,日本刀で..と目を塞ぐ具体的な残酷描写は9割強なく逆に怖がらせ方として嫌な気分にさせるザワザワと心の奥底に蟠りが残る感じです。つまりホラー映画ぽくない事に徹底したリアル思考だと思うんだけど,そういう意味ではドキュメタリな構図を取る中盤,「私」と久保さんが調査を元に関連性があろう人物たちに取材を募る場面でも,その人物たちのリアルな被写体の方が真顔で淡々と奇妙さを醸す分,ホラー映画ぽい視覚的な不気味な感じは受けた。

→映画の問題点。
まあ(構成上で)過去と現在による軸点の配分に難があるように感じましたね。つまり展開を追うに連れ"奇妙な音の原因"が(限定された)部屋ではなく(曰く付きな土地を遡り)場所そのものに関連性がある事実に辿り着くのだが,中盤以降,ほぼ構成が回想形式に切り替わり話の推進力が唐突に落ちてしまう。ゴミ屋敷の男,ボコボコ顔を出す赤ん坊,首吊り和服女,吉兼家の座敷牢(私宅監置)の幽閉談..など前住者が悲惨な顛末を辿るエピソード伝々を通じ。この辺の(私や久保さんを通じた)現在軸が実質的に進捗せず鬱屈な構成もまだまだタイトに削ぎ落とし縮める事ができたんじゃ感はある。つまり原因はヤマ場的な描写を極端に抑圧し配分を過去軸に絞りすぎのではと感じた。その影響でか構成上,必要枠な土台を固めるために不可抗力が生じ間延び問題が中盤特に生じてしまう。序盤&中盤でこれ程まで長時間な調査を通じ証拠(伏線)を貯め原因の本質を掴んだ矢先,それ以降で貯金が生きず終盤で脆く不発する感じはホラー映画で感じ取るサスペンス諸々な醍醐味が過不足すぎました。私や久保さんが遭遇する何か原因を探った事で生じる二次災害的な被害(余波)が終盤以前で1箇所でもあればこの映画は(実質上)救われたんじゃないかな。それを超ヤマ場のクライマックス1極に役割分担させるのは(構成上で)畳み掛け感が拭い切れず役不足すぎた。

→映画の問題点②。
原因の主体がナゼあのような残穢,言わば浮遊媒体になり現世で居住者たちを脅かすのか一応は回想場面を交え動機的な部分で終盤にサラッと語られるんだがう〜ん..まあ端的に説明不足(かつ,どうでもいい感じが残り)で要するに主役たち側に何か非がある物語であれば映画的な娯楽的側面で新種でもあり楽しめる映画に成功を収めてたんじゃないかと思う。この映画における1番の欠如は主役側と(原因である)主体側との結び付きが非常に希薄な関係性にある。つまり調査する蚊帳の外に置かれた立場以上に主人公たち側が原因である本質と密接的にリンクせず当然にも話の機動性も脆弱に陥り陳腐な表現になるが「ほんとうにあった話」の拡大版程度にしか結果観終わり及第点を打つ事はできなかった。演出的にでも題材自体が過去にスポットを当て遡る話なんだから,主人公たちの誰か1人でも事件にまつわる親族との因果関係で関連性をむりやりにでも結びつけ必要最低限の盛り上げ要素が欲しかった。それがこの映画には過不足すぎましたね。だからクライマックスの大転調も単なる小粒程度にしか心に響かずホラー映画としてコレじゃ単純に上等向けな構造だとは言えないよ。序盤&中盤の布石が割と丁寧目に張り巡らされただけに事態の進捗性がほぼ変化を帯びず想定の範囲内に着地しすぎる構造の不恰好は全力で否めない。ただ唯一,主演女優の演技力が良い具合に作品テーマの原因に奔走される感じが出てたので役者陣の演技は不自然なく上等向けに。

→総評。
最後の約10分に全醍醐味が集約され(監督の意気地な性分の影響で)ハッとさせられる映画だと断言できる本作。(補助線を出せば)奇妙な物音の原因に対し主役側が起因を探る(間接的な)目的により興味本位で無謀にも調査に身に乗り出しその報いが..というニュアンスで留めておこう。また和製ホラー映画として視覚的な造形or急性な破裂音などで戦慄させる映画ではなく観終わった後にザワザワと実際観客側の現実でも身近に起こり得る可能性が0%ではない意味深な恐怖感が徐々にこみ上げ潜在意識を刺激する作品なのかと思いましたね。要はリアリズム思考を突き詰め観客側との距離を置かず撮られた作品だと言える。河童のミイラも..前に『クリムゾンピーク(2016年)』というゴシックホラー映画を観たのでアレに登場する化け物に比べれば遥かに本作の奇怪な描写は薄味で笑。まあそもそも比較対象が的を得なさすぎだろ!って感じですが。はい,という事で少なく断言できるのが謎解き場面や実際に主人公たちが終盤,穢れの震源地に出向き怪奇現象の全貌を対面する形を取るので,原因部分をニゴされる事なくビシッと推理部分の最後は締まる感じです。中村監督は昨年に大絶賛した『予告犯(2015年)』がド真ん中直球を貫いてくれたので同様に期待しましたがホラー路線よりサスペンスな人間ドラマ路線の方が好みだった。監督が次撮る作品は既定路線に還帰する事を願う。曰く付き和製恐怖映画の最新版を今週末30日公開の劇場で是非お勧めです!!!!
JIZE

JIZE