Ninico

ハッピーアワーのNinicoのレビュー・感想・評価

ハッピーアワー(2015年製作の映画)
4.0
5時間17分もある大作映画。しかも主役の四人の女性は全員、演技未経験の素人にも関わらずロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したという、気になってはいたがなかなか観られなかった作品。年末年始のリバイバル上映を機に観に行ってみた。

観賞後、長い月日を彼女達と一緒に過ごした感じがした。
自分の人生や仕事のことは全て忘れて、映画の中の女性4人とそのパートナーたちの物語に没頭する時間となった。
テクニカルな解説は色々ありそうだが、ごく自然に、観客がまるで劇中にいるような錯覚に陥る場面がいくつかあるのだ。
俳優たちの演技は下手と言えばそうなのかもしれないが、棒読みのぎこちなさが作る不思議なリアリティがあって、何故だか近くで実際に起きているような感覚がある。そこに時たま、芯を食った上手い表情なんかがあってむちゃくちゃ印象に残る。
ーーーーーー以下ネタバレを含みますーーーーーーーーー
人物の描き方も丁寧である。
純の人たらしっぷりたるや。
いつでも目の前のその人のことを見ているのだ。その人の本当を見ようと覗き込む姿は子供のように無垢であり、異性関係で揉めるのも納得できる。
芙美が私は好きだった。
溜めて溜めて、爆発もせずに突然結論を出す感じ。行儀良く壊れていて、なんだか変に共感できた。こういう人って誰の周りにも一人はいるんじゃないだろうか。
違和感があるとしたら純の主人。
前半の裁判のあたりでは典型的な理系の人情味のない冷徹な男として描かれていたが、後半の小説の朗読会の場面では、ずば抜けた共感力、読解力、考察力の持ち主であることがわかった。こんなに聡明な分析力を持っているのに、連れ合いとの間柄をあそこまで壊してしまうなんてこと、あるだろうか?

基本的には登場人物たちは皆、身近にいそうな魅力的な人々で、物語には入っていきやすい。ただ、伝わらなさから普通ではないことが起こっていく。

言葉にしきれない微細な感情の襞(ひだ)を正確に伝えようとしたら、情報量は増えコミュニケーションがうまくいかなくなる。
だから大味な表現や態度に代弁させてやり過ごして「これじゃないのにな」という違和感を抱えながらどんどん時間が進んでいく。
そういうもどかしさも含めて、彼女たちと5時間17分を過ごした後はとても穏やかで温かい気持ちになれるのでは。
Ninico

Ninico