まさやん

ザ・サークルのまさやんのレビュー・感想・評価

ザ・サークル(2017年製作の映画)
3.5
Filmarksのレヴュワーのみなさんからは酷評されている本作。
導入部分も薄口で、結論も明かさない。

ロマンス要素を大胆にカットした部分はむしろ評価に値するのかもしれないが、飄々とした問題提起の仕方が、風呂敷を広げるだけ広げて何も回収しない浅はかなプロットのように思えて酷評につながったのだろう。

つまらなかったという人も、眠くなったという人もいた。
気持ちはよく分かる。脚本の出来としてはたしかにイマイチなのかもしれない。
僕も個人的には、この映画があと5年、いや10年早く作られていたら大評価を得ていただろうと想像しながら鑑賞していたほどだ。

けれど、僕がこの映画を見ながら考えていたのは、利潤を追求する巨大企業についてではない。そう、今まさにアジアを、いや世界を席巻しようとしている大国のことである。資本主義のという名の殻に身を隠した、すぐそこにある独裁国家のことである。

本作のモデルは明らかだ。
全世界に20億人ものユーザーを抱えているとも言われる超巨大SNS企業Facebook。

人々の個人情報(プライバシー)と引き換えに、あらゆるネットワークサービスを無料提供し地球規模で足場を広げて来た最先端企業Google。

そして、言わずと知れたテクノロジー企業のApple。

国家的な枠組みを超えて、世界を股にかけるこの3つのアメリカ発の大企業が、まるで1つに統合されたかのような企業集団が、本作では描かれていた。

独占禁止法に反する行為で訴えを起こす議員が出てくるほどの有様で、その内部では、ある種のカルト的な全体主義と言っても言い過ぎではないくらいの独特の企業理念が幅を効かせているのである。


そしてそのテクノロジーとネットワークが生み出した究極の利便性を、日常的な娯楽サービスとして使用するに止まらず、ついには、民主主義の根幹とも言える選挙制度にまで応用しようとする始末。

エマワトソンが、サークル社の開発会議で大演説を振るう場面。
「サークルに参加するもの全てが投票までできるようにしよう。そして、投票を義務化、ひいてはサークルへの参加を義務化しよう」
このような弁舌をぶって一同を釘付けにするのだ。

本作の1番のみどころはこのシーンにあると僕は思った。

便利になるに越したことはことはない。
ただし、それが人々への抑圧や全体主義に繋がるようであっては意味がない。

あのシーンはまさに、一企業としての限度を超え、大衆を脅かす存在に成り替わる瞬間でもあった。(結局、そのくだりでの「続き」が描かれていないは残念で仕方がないが…)

つまり、現存するFacebookもGoogleも、まだまだ国家権力のような強制力を持つまでには至っていない。今後もそうなってしまわないことをただただ祈るばかりだが、本作で描かれていた企業体はとてつもない「権力」を手にした企業である。

それが、冒頭に記した人口14億人の隣国を彷彿とさせたのだ。

そう、中国にはすでに、1億7000万台を超える監視カメラが設置され、人々は常に監視の目に晒されている。

時には、赤信号を無視した人がカメラでキャッチされ顔認証機能によって個人が特定され、横断歩道のすぐ脇の大スクリーンに実名入りで大写しにされるというのだ。
(参照記事:http://www.afpbb.com/articles/-/3147331)

形は違えど、犯罪を減らすためにテクノロジーを無抵抗に導入する本作での話とは背景を同じくしている。


あるいは、あらゆる決済システムが一元化され、個人の信用性が数値情報としてして記録・流通している世界は、これまたすでに中国では始まっている。
(参照記事:https://wisdom.nec.com/ja/business/2017041101/index.html)

映画の中では、健康情報が吸い上げられているという設定が使われていたが、健康情報などまだマシなくらいだ。
実際の中国では、金が払えるか払えないかで、人の信用が決定され、それによってサービスを受けられるかどうかが左右されている。そう、実際にそれがすでに行われているのだ。

だから、本作は近未来の話でも何でもない。
テクノロジーはすでにそこにあり、あとは「権力」とそれがいかに結びつくかということだけ。そしてそれが、実現してしまっている国もある。

恐ろしい。あまりに恐ろしい。
我々の住むこの日本も、近い将来、そのような議論が巻き起こることは必至だろう。せめて議論だけで留めてもらいたいものだが…


(p.s.色々ごちゃごちゃと言いましたけど、正直なこというと、エマ・ワトソンが可愛すぎて、彼女の動きを目で追ってるだけで幸せな気分だったので映画自体に文句はありません笑)
まさやん

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