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シン・エヴァンゲリオン劇場版のstalkawayのレビュー・感想・評価

3.5
98年に初めてエヴァシリーズを観始めて、新劇場版「序」が発表されたとき、ノリで「完結するまで観ない」と仲間内に言ってしまったことが原因で、完結までまさか15年も「待った!」をかけられることになろうとは…。新キャラ(マリ)が登場するなど最低限のネタバレは知ってしまったが、ほとんど根幹に関わる情報を避けて本作を観れたことは幸いだった。
完結を待つ約15年の間に漫画版・旧シリーズを見直し、旧約・新約聖書を読み(理解出来ているかは微妙)、万全の準備で観始めたが、本質的には旧シリーズと同じく「成長の物語」であり、古今東西の普遍的テーマである「父殺し」「母への回帰」であり、庵野秀明版の『君の名は。』であったため、そこまで構えなくても良かったなぁ(もちろん知っていた分楽しめたとも思うが…)。

庵野版『君の名は。』であると感じた点は、再構築されたエヴァシリーズの完結編である本作が非常に商業ベースに乗った作品になっていると感じたからだ。TVシリーズ・旧劇のように「この小難しい設定に付いてこれないのなら、別に作品を理解してもらわなくてもいいし、観なくていいです」といった、しっかり考察できないと内容がさっぱりわからないのは当たり前思想、いわばオタク的な制作陣の傲慢とも取れる要素がかなり減っている。
言い換えれば、オタクという存在が広く浅くなった時代の流れに合わせて、「なんだか、最近エヴァってのが流行ってるから観に行こう」というライトなファンや自称オタクの人たちもとりあえず満足できる内容であり、「よくわからないけど、アクションシーンがすごかった。キャラが可愛かった」みたいな感じでもOKなように作られていると強く感じた。
もちろん、新海誠監督が『君の名は。』でやったのと同じように、今までの自分のファンに向けたサービスとして、メインテーマに大きく関係のない要素に考察の余地を残したり、旧作エヴァを始め、『トップをねらえ!』など過去の自分の作品と通じる設定を多く盛り込むなど抜け目はない。

様々なサイトで考察されているであろう神話云々の設定も面白いが、個人的には旧シリーズから一貫して描かれている碇ゲンドウによる妻であり母代わりであるユイへの「愛、または執着」。これについて、本作でゲンドウの過去のエピソードを絡めながらしっかりと描かれていた点に好感が持てた(まさかエヴァで涙することになろうとは…)。
主人公はあくまでシンジであるが、世界の構造を変えてまで「妻にもう一度会いたい」「妻の胸で泣きたい」というゲンドウの考え方は、私の好きな庵野作品『式日』にも共通した「未成熟の男性の愛の形」であり、私自身も含め「心のどこかで他の全てを投げうってでも誰かを愛したい」という日本人的に共感しやすいテーマがわかりやすく描かれている点も商業的であり完結編にふさわしい内容となっていたと思う。
旧シリーズと違い終盤のメタ構造が「視聴者」がではなく、「庵野監督」がシンジを通して、自分の出世作(母的存在)である『エヴァンゲリオンシリーズ』に決着(神殺し)をつけ、新たな作品(『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』)に向き合っていく(大人になる)姿勢のようにも見えた。
私も本作を観終えたことで「(完結するまで)エヴァを避け続ける」という子供じみた無駄な呪縛からやっと開放されるので、一歩大人に近づけたと思う。
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