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アンナの出会いのBOBのレビュー・感想・評価

アンナの出会い(1978年製作の映画)
3.8
シャンタル・アケルマン監督のドラマ。

最新作のRR活動のため、西ヨーロッパ各国を巡っている女性映画監督が、滞在する先々で出会いと別れを繰り返す。

「心配無用よ。」

映画監督として成功し、社会的に自立した女性が、孤独と虚無感に苛まれながら、"女性のあるべき姿"を模索する物語。ウーマンリブといった社会背景や、シャンタル・アケルマン監督の実体験が基になっているのではないかと思う。

妻に自分と娘を捨てて駆け落ちされたドイツ人小学校教師。世界各地旅した結果、定住を求める列車で居合わせた男。結婚観の変化を嘆き、結婚を急かしてくる母親の友人。女性と寝たという告白に驚きが隠せない母親。仕事なんか続けて何になるんだ、家事子育てに専念してみたいよ、とぼやく仕事依存症の中年男。

理想の夫を見つけて結婚し、子育てをすることが女性の幸せなのか。家庭を築いて、定住することが幸せなのか。同性愛は隠さなければならないものなのか。

アンナが列車の通路を移動するシーンが、彼女の前途多難な将来を暗示していた。無限に続くかのごとく連なる車両間のドアを繰り返し開けるも、狭い通路は人混みに遮られて進めず、断念する。

〈白い肌に金髪ショート。社会的に成功を収めた女性芸術家。孤独。セクシャリティ。〉トッド・フィリップス監督作品『Tar』と共通点が多いなと思って観ていたが、鑑賞後明らかなオマージュを指摘するツイートを発見した。冒頭のホテルシークエンス、部屋に到着後窓とカーテンを開けるシーン、廊下を歩く主人公を真横から撮ったシーンは、ほとんどそのまま再現されていた。

まだ本作で2作目の鑑賞だが、シャンタル・アケルマン監督には"静寂の美学"みたいなものがあると思う。ほぼ夜。薄暗くざらついた映像。伴奏なしで自然音と人の声のみ。撮影や編集に主張が少なく、ドライに淡々と。感情を表に出さない登場人物たち。観客は第三者視点からその一部始終を眺める。

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