リチャード・リンクレイター監督作品。
代表作のビフォアシリーズでは積み重ねた男女の歳月を丹念に描いていた。気になる監督の一人になった。そして前作の「6才のボクが、大人になるまで。」では、少年の成長と一緒に家族の過ごす時間の移ろいが手に触れるようにリアルに感じられた。次作が待ち遠しい監督となった。
後戻りできない人生の積み重ねを表現してきた監督が選んだ題材は地方大学に進学した男子学生の3日間の出来事。
大学の新学期前のエアポケットのような時間。主人公は野球推薦で大学に入った。きつい練習も授業もまだ始まらない。これほど自由で開放的な時間もあるまい。
主人公のジェイク(ブレイク・ジエナーが好演)が野球に打ち込んできた地方出身者の率直さで、野球部の先輩や新入生との交流を深めていく。仲間とつるんでビールを浴び、遊び好きの女子学生たちと合宿所替わりの一軒家で朝までヤリたい放題。
この3日間は、太陽が真上で止まっているかのごとく、全く影が射さないようにみえる。演劇を目指す魅力的な彼女との恋も生まれる。何もかもが主人公の未来を祝福しているように映る。
だが、この映画の底には寂寥感がある。それがたまらなく良い。過ぎ去ってしまった時間、取り返せない時間への愛惜が溢れているのだ。
時代は1980年。今から36年前。青年が18歳だとすれば今は54歳。すでに人生の峠を越えてきた年齢だ。監督の自伝的な要素の濃い作品だと言われているが、中高年に差し掛かった男が、若き日の自分に語りかけような演出に思える。
80年代のポップミュージックがふんだんに使われている。遠い日の感情が音楽とともに湧き上がってくる。しかし、それは記憶の中に存在するもので、今はもう失われている。
誰もが経験したであろうあの浮き立つような空気を捉えたこの映画は、何事もまだ始まらない3日間だからこそ人々の胸を打つ。
終盤、新入生を前に教師が黒板に書き記す。「世界を自分自身で切り開こう」。
それは監督が若者に向けたメッセージだが、監督と同世代の人々に向けた励ましとも受け取れる。