のりっこ

ニーナ・シモン 魂の歌ののりっこのレビュー・感想・評価

ニーナ・シモン 魂の歌(2015年製作の映画)
3.9
「人の心に届く歌を歌いたい」とかアホみたいな目標を語る日本の歌手が大嫌いである。その目標は、歌手として生計が立てられている幸運に大当たりのおまけがついてきた!ぐらいに思う謙虚さはないのか?と感じるから。今作を観て確信した。こんなにソウルフルな歌声の持ち主ニーナ・シモンですら背に腹は変えられない状況から歌手になっている。歌いたかったわけじゃない、生きるために歌うしかなかった。目的は金でも地位でも主義でも何でもいい。人間臭さの詰まった歌こそが聴く人の胸を打つってもんじゃないのか。
神がかかった才能を与えられた人も普通の人なんやと思う。才能をしっかり受け止めきれる器もセットで与えてあげて欲しい。ニーナ・シモンの歌は何度も聴いたことがあったけど、歌う姿を観たのは初めてやった。恐らく全盛期と思われるライブシーンから始まる。拍手喝采が止むと獲物を探すように客席を凝視する異様な姿を、これがカリスマってやつかと思ってしまった。でも彼女の人生を覗き見終わった後では違って見えた。だれか助けてあげてよ、心壊れきってるやん。晩年、生活のために再起をかけて歌う歌は聴いてられへんくらい重い。ソウルフルな歌声に選ばなかった人生の選択たちへの後悔がたっぷり詰まってた。でも全盛期よりも楽しそうに見えたのは気のせいか。

ずっと特別な歌声の歌手やと思ってたけど、今作を観てピアノもとびぬけて良いことに気付けた。彼女が弾くクラッシック曲の音源も残ってたら聴いてみたかったと思った。
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