EDDIE

永い言い訳のEDDIEのレビュー・感想・評価

永い言い訳(2016年製作の映画)
5.0
ヤドカリは成長し、セミは僅かな期間で生涯を終える。人間は懸命に生き、そしていつか死ぬ。脆く儚くも人間は不完全だからこそ愛おしい。

傑作が多いと言われる2016年の邦画。
この作品は段違いに良かったです。
『ヒメアノ〜ル』が2016年の年間ベストだったんですが、満足度でこれを超えました。

私は家族にまつわる物語が大好きで、今年2020年は山田孝之主演の『ステップ』が抜群にハマりました(3回劇場に観に行ったほど)。

そして本作『永い言い訳』は衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)がバス旅行の最中に事故死したとき、不倫相手と寝ていました。
傍目から見ると夫婦の2人。だけど、心は完全に離れ離れ。結婚してから20年来、妻に髪をカットしてもらうことこそ続いていましたが、2人の会話から幸夫が自分のことしか見えてないことがわかります。
妻の死に直面しながらも悲しみが押し寄せてこない幸夫。
一方、妻と一緒にバス旅行に行っていた友人のゆき(堀内敬子)を亡くした夫の大宮陽一(竹原ピストル)はひと目も憚らず怒り泣いています。

妻を亡くした共通点がありながらも、対照的な2人の男の邂逅。
妻を亡くした焦燥感に駆られる陽一、妻を亡くしながらも普段と変わらない幸夫。
幸夫はひょんなことから陽一の2人の子供たちと接し、そして面倒を見るかなとになるのですが、子供たちとの接し方や感情の変化、子供たちの成長など細かな部分が丁寧に描かれています。
人生を器用に渡り歩いて来た幸夫だからこそ、しっかり者の兄・真平(藤田健心)とは早くも打ち解けますが、まだ幼い妹・灯(白鳥玉季)とはなかなか打ち解けることができません。
どのように接するべきか考えあぐねている幸夫だけど、一つの部外者の介入によって一気に距離が縮まる2人。灯も仲良くなりたいけど、きっかけが掴めなかっただけ、どう接していいかわからなかったのは灯も同じだったのです。
ここの場面に限らず、一人一人の人間同士の感情の機微がとても丁寧に表現されていて、作家の一面も持つ西川美和監督だからこその仕事ぶりを見させていただきました。

また、少しオーバー気味ながらも本作だからこそハマった竹原ピストルの演技は見ものです。本当に素晴らしい。
一見いい父親のように描かれますが、彼も人間。完璧な人間などいないと宣言するかの如く、彼自身も悩み苦しみます。
2人の妻との別れをきっかけに、幸夫、陽一、真平、灯の4人の擬似家族が出来上がるわけですが、それぞれが壁とぶつかりながら成長していく模様がとても心に響いてきます。

小説家として力が振るえずにいた幸夫にとってこの家族との出会いは大きな転機となります。
妻に言われた言葉と同じような言葉を他人から言われます。幸夫も陽一も自分ばかりを見ていたのです。
100%なんて到底無理。だから人間は支え合うんだ。
海でヤドカリの成長を喜ぶ灯を見て涙する陽一の心の優しさ、それは幸生が持ち合わせていないもの。だけど、陽一が持っていないものを幸夫は持っています。
そうやって2人がそれぞれの弱さを補い合いながら、大切な未来ある2人の子供たちを育てていくのです。

終盤の授賞式のシーン。すれ違っていた陽一と真平の戯れる姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろしました。

それぞれ妻を亡くした気持ちや立場は違えど、それをきっかけにこれからも続く人生に明るい未来を感じさせる傑作でした。

それにしてもキャストも何気に豪華。
池松壮亮や黒木華、戸次重幸、声だけの登場という木村多江の贅沢起用などなど。
今年鑑賞した『ステップ』でも印象的な演技を見せてくれた白鳥玉季の4年前の姿は横顔こそ今と共通項を見出せましたが、子供は一年一年の成長が逞しくも凄まじいことを感じさせます。知らなければ同一人物とは思えなかったでしょう。

いやぁ、本当に素晴らしく「好き」と思える作品に出会えました。

※2020年自宅鑑賞296本目
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