豚

ディストラクション・ベイビーズの豚のレビュー・感想・評価

3.3
暴力に飲み込まれてしまった若者たちの青春を描いたバイオレンスドラマ。
全編を暴力というテーマで包んでいるため、場面によってはかなりエゲつない、というか不快感が高まる。
ただところどころ暴力が笑いに昇華するシーンもあったりして、なかなか絶妙な匙加減だなと感じた。

主要人物、とくに柳楽優弥演じる主人公がほとんど感情を吐露しないため、なぜ彼・彼らはこのようなことをしているのか?に対する答えが少ない。
ただ、これについてはそもそもこの作品が感情移入しながら観るタイプのものではなく、彼らの行動そのものを一歩引いた視点で観させていることに意味があるからなのではないかと感じる。
徹底的に描かれる暴力の渦に巻き込まれるのではなく、それを観察することで一体観客にどのような感情が生まれるのか。
そういった実験に近いテーマで撮られているようにも思えた。

主要なキャラクターはいずれも世間一般でいうところの"負け犬"的ポジションでもあり、そうした彼らであるからこそ、鬱屈の溜まった現状を暴力に置き換えることで、抗おうとしている様がとても印象的。
とりわけ、最後の川を隔てた"善と悪の対比"を描いたシーンは、本作が暴力というテーマであるがゆえ、より一層美しく映った。
観賞後、決して明るい気分とはとても言えないけれど、だからといってズッシリ重く鬱々とした気分になるかというとそういうわけでもない、非常に不思議な温度の映画。

柳楽優弥、菅田将暉二人の演技はとても素晴らしかったですが、八方塞がりの中それでも希望を追いかけた弟役の村上虹郎が個人的にはとても印象に残りました。
インディーズ出身の監督だけあって、一般的邦画とは撮り方、魅せ方がだいぶ異なりますが、こうした作品がそれなりにヒットしたことを考えると、なかなか明るいニュースではないでしょうか。
あまりにも暴力というテーマに寄りすぎた作品なので、これだけを持って判断するのが難しいですが、個人的には今後にも期待したいです。
当然好き嫌いはハッキリ分かれると思いますが、好きな人にはバッチリ刺さる映画なのではないかと感じました。

まさに抜き身の刃物のような物語ではあるのだけれど、それを彩る向井秀徳の音楽がまた良く、日常から非日常への落下感をいやがおうにも意識させられる。
豚